STORY
うっかり外遊びの記録

たまには男二人でデイキャンプにしけこむなんてのも粋だ。しかもそれが無計画の自然発生的な賜物ならなおさら。
特段プライベートで遊ぶわけでもないが、仕事でよく一緒になるいわゆる仕事仲間と二人、今日も同じ現場だった。交通費を浮かすために彼の車一台に相乗りして向かう先は神奈川県某所。仕事は15時という中途半端な時間に解散となり、夕飯には早いし、温泉に直行するほど汗を流したわけでもない。
プライベートで遊ぶわけでもないから気軽に寄り道に付き合わせるのも気がひけるが、向こうも明日は休みとのことだったので最近見つけた磯と投釣りに良さそうなポイントの下見に行くことにした。
勝手に始まる
デイキャンプ

彼は釣りはしないが、そういえばキャンプは好きだったなと思い出し「ソロキャンプにいい場所あるよ」とズルい誘い方をした。私は磯場にしかピントを合わせていない。この辺りは何度も仕事で来ていて、釣りに良さそうな場所はほぼ網羅できていると思っていたが、釣り人と思しき車が見慣れない場所に停まっていたので、それをガイドに来てみたらドンピシャだったのである。

ウロウロと散策する私を尻目に彼はすでにギアを展開している。四駆ならクルマも乗り入れられるし、たしかにキャンプするにもめちゃくちゃいい場所だろう。海岸でキャンプできる場所はなかなかないから、ある程度の玄人ならインフラがなくてもいい景色があれば数泊は過ごすことができるだろう。
さすが年間数十泊も自然の中で過ごす屈強な戦士である。BBQの時に意外と苦戦する炭の火おこしからサイトレイアウトまで10分もかかっていない。海風が少し肌寒いから、焚き火があるのは助かる。私は基本釣りばかりだし、キャンプなんてやっている暇ないよと思っていたが、これは子供が喜ぶかもしれないな。
いちからギアを揃えるのは大変だし、どこからそんなお金を捻出するのかは不明だが「家族みんなで楽しめる」という最強の言い訳を武器に、うちの大蔵大臣に掛け合ってみるのもいいだろう。
「実は昨日キャンプしていて」と余った食材で色々と作ってくれた。15時のおやつにしてはカロリー高いけど、リラックスして自律神経が整ったが故の食欲なのか、食う以外やることがないからなのかはわからないが、ちょうど小腹が減ってきていたところだった。
ピザなんて随分本格的だと感心していると「最近キャンプ用に導入した薪ストーブなんですよ」と嬉しそうに語っている。なんでも煙突部分に触媒が仕込まれていて、煙が少ないから自宅の庭でも使える代物なのだとか。なるほど、家でも使えるっていうのは一石二鳥だ。キャンプ用品の良さは、遊びだけじゃなく防災や日常生活で役に立つことがあるっていうところなのかもしれない。
またひとつ大蔵大臣の判子をもらう可能性が上がった。
独りよりも誰かと

「そういえば日帰りなのになんでテント立ててるの?」と素朴な疑問をぶつけると、試し張りですとのこと。要は本番前のテストらしい。最近はなんでもネットでポチッとできるので、購入前にテントの設営ていう方が珍しいのだろう。釣具もウェアも店頭で買う派の私だが、理由としては店員さんとのコミュニケーションにある。特に釣りに関してはメルマガやネットでは拾いきれない情報の交換もできるし、共通の趣味を持つ知り合いみたいな絶妙な距離感を保つことができる。

そういえばここについてからというもの、焚き火を囲んでご飯を楽しみつつも彼と色々話すことができた。車中ではいつも通り仕事のことや共通の知り合いのことなど、当たり障りない会話ばかりだったが「この人を知ろう」と意識して話をしたのは初めてかもしれない。
長く付き合っている彼女のこと、家族のことや今の仕事に就いた理由、将来の展望など話題は多岐に渡った。会話が途切れてもパチパチと爆ぜる焚き火の音と、波の音で妙に心地がいい。
仕事でよく一緒になるのに店員さんと同じ距離感じゃなんだか寂しいなと感じた。理由は特にない。他人に興味を持つのに理由なんて不要である。
昔からよく同じ釜の飯を食った仲や、同じ風呂に入った仲云々というけれど「一緒にキャンプした仲」という慣用句が使われるようになるかもしれない。