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川べりテントサウナー

川べりテントサウナー

噴き出す汗を応援するかのようなアブラゼミとヒグラシの大合唱が響く名栗村。友人と計画していたサウナキャンプの拠点に到着した僕は、絶好の外遊び日和に心躍らせていた。舗装路は照り返しが強く、足元はおそらく60度くらいに達しているだろう。素足だと火傷するレベルだ。そんな災害並みの暑さも、あの川に飛び込んだら気持ちいいだろうなとポジティブ変換される。

 

仕事も遊びも

テントサウナをたてる

今日集まった友人は共通してみなサウナ好きである。とりわけテントサウナが好みだが、月一回はこのメンツで都内の施設系サウナと町中華を楽しむ都内サウナ巡礼会を開催している。知り合ったきっかけはバラバラで、学生時代のバイト先の後輩や高校時代の同級生など様々だ。
みな出会った頃は自分も含めて青二才だったが、今では立派な企業戦士である。いまだにこうして集まって、当時に戻れるのが嬉しい。

  • サウナの準備
  • BBQの準備



自分のタイミングでサウナを楽しみたいから、河原でBBQしながらテント泊でゆっくり過ごすつもりだ。テントサウナ本体の代理店もしているが、どちらかというと体験サービスの方に力を入れている。キャンプよりもハードルが高いというイメージがあるが、最近では設営の楽なテントサウナもある。とはいえ一般的にはまだまだ広まっていないので、ロケーションの選定やテントサウナの設営、サ室の温度管理など丸っとコーディネートしているのだ。
仕事がテントサウナということもあって、遊びだろうが準備は基本僕の仕事だ。

 

本当に「ととのう」とは

川の中で

社会に出て間も無く、僕は弱っていた。SEとしてそこそこの会社に入社したものの、仕事に忙殺されて心身ともに不健康な状態が続いた。気づけば会社に行けなくなり、休職。先のことは漠然とした不安で、無気力にもなっていた。そんな折、学生時代に軽音楽部で一緒だった友人が「テントサウナやろうよ」と誘ってくれたのが今へ繋がる。当時はテントサウナなんて言葉自体もちろん初耳で、キャンプすら幼少期以来行ったことはなかった。少し腰は重かったが、たまにはいいか、くらいの軽い気持ちで参加した。

  • テントサウナ
  • テントサウナ



そこで初めてテントサウナを体験した瞬間に「これを仕事にしよう」と心に決めた。そこからどう元気になったのかとか、回復した過程などは覚えていない。覚えていないほど一生懸命駆け抜けていたんだと思う。サラリーマンが向いていなかった、といえばそうなのだが、自分のやりたいことに猪突猛進する方を選択した。失敗しても自分が責任を取ればいい。また立ち上がればいい。そうハッキリと心に決めていたというよりも、覚悟を決めた瞬間だったのだ。心に受けた傷は、時間が多少癒してくれるが、完治させる薬は“決意ある行動”のみだ。

川の水
  • 整う


  • 整う



自分が提供するサービスと、考えていることの軸がブレないように、定期的に自ら体験サービスを受けることにしている。テントサウナの魅力は、なんと言っても大自然の中でととのえるということだろう。川のせせらぎ、鳥の声、たまに現れる野うさぎやタヌキなどの野生動物。環境に依存することが多いが、自然と対峙している時の人間が最も人間らしいと言える。
将来、地元の飯能市に屋内型のテントサウナ施設を作る計画をしている。いつになるかわからないが、もっと気軽に、もっと多くの人にテントサウナの魅力を伝えられる場所を作りたい。

川の水

テントサウナの温度は120度、川の水温は15度ほど。天気はピーカンの37度の酷暑という、絶妙な温度バランスの中で何度もととのうことが出来た。河原を歩く低山ハイカーたちやキャンパーたちからは好奇の目で見られているが「一緒にどうですか?最高ですよ!」と、自然と声をかけている自分がいる。塞ぎ込んでいた頃の自分はそこにはなく、水面を見ると最高の笑顔が映り込んでいた。