STORY
無理なく自由に楽しむ
BMX
週末を家で過ごすことに抵抗がなく、むしろのんびり過ごしたい派の妻と2人の娘。そしてじっとしてられないものの、近所で楽しむ術を知っている息子と僕。いつも自然に男子チームと女子チームに別れて、好きなことを勝手にやるのがうちのスタイル。この前の休みは最近釣りに目覚めた息子と近所の小川に行ったけど、今日はもう一つの共通の趣味であるBMXに乗るため、河川敷まで行くことにした。
各々楽しむ、おうち時間
グラフィックデザイナーの僕と、イラストレーターの妻。2人の希望を詰め込んだ家を八王子に建てたあの日から早7年。ランドセル姿が初々しかった長女が中一になり、長男は小六に。新築だったときには赤ちゃんだった次女も小一になった。育ち盛りの子どもたちといろいろと手を出してしまう僕がいるせいで、いつの間にかモノで溢れている。でもそれでいい。“許せる暮らし”を目指してこの家を設計してもらったのだから、むしろ狙い通りになっていると思う。
いつも通り家のカウンターで漫画を読んだり絵を描いたりしている娘を横目に、息子の創太郎は先日ゲットしたルアーを眺めている。ちょうど一階の窓から僕のハイエースの後部座席に入ることができるので、そこをパーソナルなリビングにしてくつろいでいるのだ。
子どもたちは仲は悪くないのだが、住む世界が違うのか遊ぶときは基本バラバラ。唯一テレビゲームをするときは一緒だけど、さまざまな経緯があって、ゲームは3人全員で一日合計30分までと決まっているから、プレイするときは愛憎入り混じった感じなのかもしれない(笑)。
この日、僕は土間でBMXのメンテナンスをしていた。通勤で駅までロードバイクに毎日のように乗っているけど、ここ一ヶ月ぐらいはBMXに乗ってなかったから、気分を上げるためにちょっといじくっていたのだ。ひどいときで家に12台ほど自転車が並んでいた時期もあったものの、さすがに寛容な妻からも注意され、今は5台ほどを乗れる状態にして、あとはパーツで収納している。たまに思い出したようにパーツを引っ張り出して組んでみるのも、僕の好きな家での過ごし方なのだ。
息子に影響されて始めた
BMX
世代的なものもあり、ストリートカルチャーに染まって若い頃に始めたと思われるが、実は僕がBMXデビューしたのは30歳を超えてから。僕が創太郎にBMXの楽しさを教えたのではなく、むしろその逆で、創太郎がやっているのを見て僕も興味を持ったのだ。
創太郎がBMXに乗り始めたのは、5歳の頃。練習をして自転車に乗れるようになって嬉しかったのか、家の目の前でずーっと何時間も自転車を乗り回していて、しまいには自転車で階段を降りたりしたいと言い出した。それで妻が「確か飛んだり跳ねたりする自転車ってなかったっけ?」と、BMXにたどり着き、クリスマスか何かのプレゼントであげたのが始まり。一緒にトリックのやり方を勉強したけど、まだ小さな子どもに理屈なんかわからないこともあったし、やっぱり自分もやってみないと分かんない部分もあるからと僕も購入することに。
僕は運動神経も飛び抜けていいわけじゃないし、ケガも怖さもあるけど乗ってみるとやっぱり楽しい。カスタマイズ性も高く、モノ好きな自分が夢中になれるポイントが盛りだくさん。やり込み要素が多いし、どんどんうまくなっていく子どもを見ているのも嬉しかった。
何年も続けているうちにパークに行って大胆な技もできるようになって、しばらくコンペにも参加して大会のために遠征もしたりした。週末のたびに自転車をクルマに積んで、2人で遠くに出かけていく。結構そのときから週末を男二人で過ごすってスタイルができあがったのかもしれない。
自分たちなりの乗り方で
家族での外出や自転車を積んでの遠征を考えて、大きな車が欲しいと思って行ってみた幕張のカーショー。そこで出会ったのが、今乗っているゴードンミラーのハイエース。それまで、カー用品店がやっているこのカスタムカーブランドの存在すら知らなかったけど、「オーナーの好きなようにアレンジできる」という説明を受け、僕たちの家とまさに同じ価値観だと思って、思い切ってローンを組んだんだ。
コイツのおかげで家族でキャンプに行くようにもなったし、自転車遠征も楽になった。それに倉庫がわりに自転車を積んでおけるから、すぐにどこにでも走りにいけるのも良いところ。
ただ最近はBMXの大会のためにどこか遠くにいくことは無くなって、もっぱら近所の河川敷とかパークに行くことが多い。というのも、一時期は上位を目指して大会に参加していたけど、公式戦だとどんな技が高得点がつくかが決まっているから、同じクラスだと同じような技のオンパレードになる。僕たち親子は、それってやっていても、見ていても全然面白くないと気がつき始めたんだ。
全員ではないものの、なかには子どもへの指導が厳しすぎる人もいて、自分たちとは少しノリが違うと感じることもあった。BMXのパーク競技がオリンピック種目になったタイミングで競技人口が増えたのは嬉しいけど、僕も創太郎もポイントを競うっていう乗り方に魅力を感じなくなったので、今は好き勝手乗ることを楽しんでいる。
今日やってきたのは家からクルマで10分ほどのところにある河川敷。最寄りのパークまでは40分かかるけど、ひとけのないここなら近いし、フラットランド的な遊びができる。釣りも自転車も全く別の遊びだけど、懐の深さという点では似ていると思う。いろんなスタイルがあるぶん、フィールドによってそれぞれの楽しみ方ができる。そこには、渓流釣りが偉いとか、ロードバイクが至高だとかそんな格付けなんかなくて、みんなそれぞれが好きなように、どんな場所でも楽しめる。そんな余裕が感じられるから、僕も好きなのかもしれない。そしてもっと上手になりたいと思えるから、趣味として魅力的なのだ。
一時は日本のトップレベルのBMXライダーと一緒に練習していただけあって、生意気にもBMXの腕前は僕より創太郎の方が数段上手。しかし、僕にはできてアイツにできない技がないわけでもない。コンペとは距離を置いたが、こうして親子で張り合えるっていうのは悪いもんじゃない。
河川敷をランニングしている人たちや、BBQを楽しむ人の視線を少し感じながら、自転車にまたがる平和な休日。中高生になったらこうして遊んでくれなくなるのかと思うと寂しくなるけど、一緒に過ごしてくれるうちは、僕も擦り傷とアザを作りながらペダルを漕いでいかなきゃな。