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愛犬と歩く秋の猟場

愛犬と歩く秋の猟場

夏は渓流釣り、冬は狩猟。僕は「とって食べる」ことが好きで、自由を感じられるから休みの日は結構な確率で山にいる。今日は埼玉の中心部から40キロ西へ。犬の散歩のために1時間以上もかけてクルマを走らせるなんて少しオーバーすぎるけど、これも僕たちハンターにとっては大切な予行演習だから仕方ない。11月15日から始まる猟期を前に、相棒のロックをいつもの山に連れ出した。

 

軽トラで街から山へ

軽トラで街から山へ

愛犬のロックは四国犬とブリタニースパニエルのミックス。狩猟の相棒であり、かわいい家族としてもう4年の付き合いになる。仕事のある日は家の近くで散歩するだけで満足してくれるけど、犬種が犬種だから、時々思いっきり発散させるため山に来るんだ。

助手席から見える風景も変わってきて、明らかに嬉しそうにしているロック。狩猟のときは月に何度も訪れるエリアだから、もしかしたらコイツも道を覚えているかもしれない。山から帰るときはノミが付いているから荷台に載せたゲージのなかで寝ててもらうけど、向かうときはこうして助手席に座り、目を輝かせながら外を眺めている。

  • 大工仕事
  • 助手席に座る



大工や庭仕事を請け負う便利屋をやり始めてほぼ10年。自営だから自分の裁量で休みはいくらでも作れるし、毎日違う場所に行けて、毎日違うことをできるっていうのも自分の性に合っている気がする。仕事のおかげか大抵のことはなんとかなるって思っているから、難しく考えずになんでもやるようになった。
今日も今日とて、猟場に向かう林道に倒木が。今日はノコギリしかなかったからギコギコと折れた部分を切って、除去して前に進む。こういうときのためにチェーンソーを積んでおけばよかったかな……。


片側が崖になっている林道をガタゴト進み

片側が崖になっている林道をガタゴト進み、猟場の入り口にたどり着いた。愛車の軽トラは半年前にハイラックスから乗り継いだもの。前のも気に入ってたけど、仕事では道の狭い住宅地を走ることも多いし、何より山の猟場や釣りに行くにはこの機動力が頼もしい。

 

猟犬ロックの本領発揮

猟犬ロックの本領発揮

所属する狩猟グループではいくつかの山を猟場にしていて、今日来たところもそのひとつ。猟期中は毎週末集まって大人数で山を囲み、猟犬で獲物を追い込む「巻狩り」をしているんだけど、今日はその視察をかねたロックの散歩に来たのだった。彼は去年の猟期に入って早々、オスのイノシシに突進されて脚を怪我してしまったので、昨シーズン中はずっと療養に徹していた。

狩猟犬

愛犬が怪我をするのは悲しいけど、狩猟犬を家に縛り付けておくのもそれはそれで酷。家でダラダラするより山を目一杯走って、頑張った分だけ美味しい鹿肉にありつけた方がロックも嬉しいんじゃないだろうか。と勝手に思っている。

僕は有害鳥獣駆除員をやっているので、11月から2月の猟期以外も猟をやっていてロックはこの春から復帰。もうすっかり本調子を取り戻したようす。怪我を経験して獲物との距離感を学んだようだし、冬の狩猟シーズンには森の番人として大活躍してくれるだろう。

狩猟犬

しっかりと耐切創のオレンジのベストを着せて、GPSマーカーを付けてあげれば準備は万端。街中ではダメだけど、ここでならリードなしで走り回っても問題ない。そして、ロックが獣を探して山を駆けている間、僕は猟場のチェックを。イノシシの寝床を見つけたり、シカのフンや獣道を確認したり、彼らの近況を探るのだ。

登山道なんてない

ここの標高自体は大したことないけど、普通の登山と違って登山道なんてないし、急登することも多いから、ただ山を歩いているだけでいい運動になる。日々ビールで摂取しているカロリーは、こうして相殺するのが僕のスタイル。
そんなことをボンヤリ思いながら歩いていたら、ロックは数分のうちに一つ山を超えた向こうまで行ったみたいだ。

 

山歩きの副産物

山歩きの副産物

ときどき自分の所に帰って来ず、犬の捕獲大会になるのは猟犬あるあるなんだけど、獲物を追いかけてどこまでも行かなければ、大抵の場合はちゃんと戻ってくる。ただ、それが何十分なんだかなんだかはロックの気分次第。どうせ散歩中は時間を持て余すだろうと思って、今日ははなから食べ物採取をすることにしていた。

この山は杉山で落葉しないせいか地面も乾燥気味。あんまりきのこや山菜もあまり期待できないとはわかっていたけど、アケビやムカゴなど、探せば食べられるものは無くはない。

野生食材採集

アウトドアというか、野生食材採集にハマったのは10数年前。当時は知り合いの不動産屋の社長に頼まれてバーテンをしていて、朝7時の掃除から始まり、ランチ営業とバー営業で夜中の2時ごろまで休みなく働いていた。そんな生活が続くとさすがに若くても体力が持たず、体調を崩して仕事を辞め、3ヶ月ぐらい休養をとることに。そんなときにYouTubeを観ていて、興味を持ったのが自然遊びだった。
特別な道具も必要なく、ただ山に行って、食べられる山菜やきのこを取って、つまみを作って食べる。そんなことをしてたら自由を感じられて、心も身体も回復していった。

  • 野生食材採集
  • 野生食材採集



それ以来アウトドアが好きになって、知識はそんなに多くないけどサバイバルっぽいことをしたり、釣りを始めたり。自分でとったものを食べるという行為にハマった末、肉も獲れるんだということに気がついて、狩猟に手を出した。
最初は火薬を使わないエアライフルでの鳥猟から始めたものの、やっぱりシカやイノシシに興味を持って、今所属している狩猟グループと関わりを持つように。それからは埼玉県西部のこの山近辺がホームグラウンドになっていったんだ。

埼玉県西部

 

秋の恵みをいただきます

秋の恵みをいただきます

午前中いっぱい野山を歩き回って疲れた僕とロックは、狩猟グループでキャンプするときに使っている秘密の野営地へ。せっかくこっちまできたんだから、さっき採れた山の幸を使ったランチを作って、もう少しのんびりしよう。と言っても、きのこは食べれる種類か不安だから、ムカゴを使った炊き込みご飯しかできないんだけどね。

ムカゴは自然薯や長芋の蔓になる球芽。その根本を掘れば本体があるものの、生憎今日は掘るものがなかったから……。でもムカゴは生で食べてもシャキシャキして美味しいし、炊くとホクホクして甘味もあるから、これはこれで良し。

秋の恵みをいただきます
  • ムカゴご飯
  • 熱い視線を送っていたロック



枝を切って作った歪な箸でムカゴご飯を実食。米と水とムカゴだけというシンプルなレシピだが、どこか赤飯のような甘さがあってホッとする。これに少し塩を振ったら、オカズなしでも問題なく食べられる。

そんな僕の隣で熱い視線を送っていたロックにも、少しご飯をお裾分け。ケモノだけじゃなくて、松茸とかトリュフとか、美味しい山の幸の匂いも嗅ぎ分けてくれないかなぁ。そんな都合の良いことを考えながら、秋の短い午後をロックと過ごした。

秋の自然