STORY

僕がロックショアに通う
理由

僕がロックショアに通う理由

年間でおよそ150日も釣りをしているというと、世捨て人なのかと訝しがられる。自分でもよくやっているなと思うから、世間の人がそう思うのは当然のことだ。だけど、仕事も家庭も蔑ろにしているわけじゃなく、睡眠時間を削ったりしながら、無理やり自分の時間を作ってやっているんだから、大目に見て欲しい。それに今日は平日じゃなくて週末。いつもより大手を振って磯に立つことを許されるのだ。

 

ラングラーとアングラー

ラングラーとアングラー

釣りをしに家を出るのは、まだ星が見える早朝。日の出とともに釣りをして、2、3時間朝マズメを楽しんだら家路に着くのがいつものパターン。ここ数年は週に何度かリモートワークできるようになったから、平日の朝も海に向かうことができる。
こんな理想のライフスタイルができあがったのは、未曾有のパンデミックによる怪我の功名。妻も自分も仕事がリモートワーク可能になったことを期に、都内から千葉の袖ヶ浦に引っ越してきたのだ。


理想のライフスタイル

職場は変わらず都内にあるから通勤時間は増えたものの、それでもバスで1時間強。一方で房総の釣り場なら、どこでもクルマで一時間圏内で行けるようになった。仕事と釣りを両立する最大公約数として、袖ヶ浦という場所は最高。今年はかわいい息子も生まれたし、この秋にはこだわりの新居が完成。幸せな毎日を送っている。

4、5年前までは相棒のラングラーに乗り込み、一人で釣りばっかりしている日々だったのに、ずいぶん変わったなぁ。いや……釣りに費やす時間は変わってない、というかむしろ長くなっているけど……。とにかく自分にも守るべきものが増えたってことは確かだ。


一人で釣り

ありがたいことに、妻も出会う前から釣りが好きだったので自分の釣りに対する情熱を理解してくれている。週末でも昼頃までに帰れば特にお咎めはないし、子守りをバトンタッチして、妻が午後から船釣りに出かけることもあるくらい。こうして心置きなく釣りに没頭できる環境があるというのは、本当にありがたい。

 

海と向き合う
愛おしくて辛い時間

海と向き合う愛おしくて辛い時間

釣り好きなのは親父の影響で、弟と一緒に小学校か幼稚園の頃からバス釣りをしていた。ちょうどバス釣りブームでもあったので、思春期も飽きることなく釣りを続けて大人になった。今は海釣り、というかほぼ磯釣り専門のようになっているけど、バス釣りからこっちの世界にきたのは、27歳のとき、幸か不幸か72cmの巨大なバスを釣ったから。
ブラックバスの世界記録は73.5cmで、それとほぼ同等のサイズを釣ってしまったので、これ以上のものがないと思ったら別の釣りをしたくなったというわけ。

それで始めたのが海釣り。といっても餌を引っかけて待つのは性に合わないから、まずやったのは、堤防やサーフからのライトショアジギング。次にルアーでアジを釣るアジングといろんな魚種に挑戦してみた結果、磯での青物釣りに行き着いたんだ。

海釣り

ロックショアの面白さは、自分の経験値に左右される部分も多いこと、そして対象となるブリ、ヒラマサ、カンパチといった、強いファイトを見せてくれる青物とのゲームが楽しめること。打ち寄せる波飛沫に晒されたりして、落水や転倒も起こるから、決して安全で楽な釣りではない。けれど目の前に人工物がなく、自然にできた岩礁や潮の流れを読み解いて、苦労して一匹を釣り上げるという喜びは、他にないものがある。

  • ロックショア
  • ロックショア

今日だってウェットスーツを着ているけど、11月に吹きっ晒しの岩の上で、飛沫を浴びながら立っているとさすがに冷える。天候や潮の流れ、地形をふまえ、今ならどうするべきかウンザリするほど考えながら、とにかくルアーを投げてはリールを巻き上げる。正直いって、ヒットして釣り上げるとき以外の90%以上は辛い時間。だけど残りの数%のために自分はここに来る。
突然竿に荷重がかかったときのドーパミンの出方は半端じゃなく、パワフルな青物を制圧できたとき、その多幸感に中毒性がある。これがやめたくてもやめられない理由なんだと思う。

 

房総のヒラマサを追う

房総のヒラマサを追う

ロックショアの虜になって以来、もう7年も千葉の房総半島をフィールドに通い詰めているけど、ずっと思い焦がれながら、振られ続けている魚がいる。その魚というのは、アジ科最大の魚であるヒラマサ。このヒラマサという魚は見た目がブリにそっくりなものの、実際は似て非なるもの。大きいものでは1mをゆうに超える個体もいて力強いことから、多くの釣り人の憧れになっている。

自分もヒラマサに取り憑かれた釣り人の中の一人で、この釣りを始めて以来、ヒラマサのことを考えなかった日は無い。その存在を意識して何百日と海に立ち向かってきたけど、房総エリアに限っては、彼らとの接触はたった2回だけ。アタリがとれた瞬間にこれまで味わったことのない強烈な引きを味わい、ヒラマサと確信するも、いずれも岩礁の裏にまわられてラインを切られた。

SHIMANOのシステムケース

単純に釣りの難易度が高いことと、ブリと比べて倍以上の引きがあること、引き締まった身の味が美味しい。それだけでも十分に目標になる魚だけど、自分は船ではなく磯で、そしてこの房総半島でヒラマサを釣ることに情熱を燃やしている。

無論、狙ったからといって簡単に釣れるなんて思っていないけれど、いつルアーに食らいついてくるかもわからない。だから、いても立ってもいられなくて、こうして時間を見つけては磯で竿を振っているんだ。

釣れる 釣果

釣りに行けば毎回釣果があるというものでもないから、何かが釣れるだけでももちろん嬉しい。この日も太陽が上がってきて、そろそろ辞めにして帰ろうと思い始めたとき、ようやく釣りの神様が竿をしならせてくれた。今まで南房総では釣ったことのなかったツムブリ、そして約80cmのワラサ。北風が吹き荒ぶ中を耐え忍んだ末、楽しい駆け引きが待っていて報われた気になる。

 

釣り終えたらパパの顔

釣り終えたらパパの顔

釣った魚を締めて帰り支度をしていると、妻と子どもが迎えに来てくれた。いつもは家で待っているけど、「お気に入りの店でマフィンを買うついでに、久しぶりに来たくなって」とのこと。今日は無事に魚も釣れたし、夕方から魚パーティーでもしようか。

そんなことを話している僕たちの横で、息子は波が岩にあたって弾けるのを遠くにみてキョトンとしていた。

海