STORY

僕たちの
ファームサイドストーリー

僕たちのファームサイドストーリー

気軽に海に行ける神奈川や千葉の土地を求めて、僕たち夫婦がたどり着いたのが南房総のエリア。10年以上この辺で暮らして子どもを持ったこともあって、自分たちの家を建てるための土地を探しはじめた。そんなに条件がたくさんあったわけではないけど、僕たち夫婦が譲れなかったのは、海に近い立地と家庭菜園や果樹がたくさん植えられる広い土地だった。

 

オーストラリアの
農園で感じたことを
カタチに

オーストラリアの農園を参考に

今こうして住まいを構えている土地は、もともとは20年以上薮だった休耕地。初めて敷地を見学に来たときは地形さえもよくわからなかったけど、庭を見渡すように斜面の上に家を建てたら気持ち良いだろうと想像できて、最初に訪れたときから心惹かれていた。結局2、3年土地探しに費やした末、一番魅力的だったこの場所に家を建てたのは2019年のことだ。


斜面の上に家を建てた

850坪ある敷地のうちの半分くらいは、果樹と野菜畑。東南方向に設けた広いデッキからは眼下にそれらを見渡すことができる。この風景は、昔訪れたオーガニックファームから影響を受けたもの。その家からは牛や馬の姿が見えたけど、うちはそのかわりに田んぼや太平洋を望むことができる。外房の海から登る朝日はいつも眩しいくらいに我が家を照らしてくれて、僕たちと植物たちにパワーを与えてくれる。


田んぼや太平洋を望むことができる

僕たちが家を構えるにあたって大きな影響を受けているのが、オーストラリアで過ごした海がそばにある暮らし。僕も妻も20代にワーキングホリデーでオーストラリアに滞在、サーフィン三昧の日々を過ごしたことがあるのだが、当時のバイロンベイの原風景が、そのまま僕たちの“理想の暮らし像”の一部となっている。

月日は流れ、30歳を過ぎたころ僕は広告関係の会社を、妻は雑誌関係のデザイン事務所を退社。結婚を期に東京から千葉に引っ越すことにしたタイミングで、僕たちは新婚旅行がてら3ヶ月間オーストラリアに滞在した。その内容はサーフトリップでもあったけど、彼の地での暮らしを体験するという目的もあった。ワークエクスチェンジのサイトを通じて知り合ったいくつものオーガニックファームを、2週間単位で転々として農業ボランティアをしながら現地のリアルな暮らしに触れる。この経験が僕たちの南房総暮らしのバックボーンとなって、今の生活に繋がっている。


今の生活

人と自然が共存する社会をつくるためのデザイン手法、農的ライフスタイルである“パーマカルチャー”の発祥の地であるオーストラリア。自然とうまく付き合う方法として僕たちも彼らを参考にしようと、いろんな農家を手伝って、話を聞いてみた。いろんなメソッドや考え方があることを教わったけど、ファーマーごとに言っていることは結構違う。旅を続けるうちにわかったのは、自分が信じることをやれば良いってこと。この実体験は、僕たち夫婦に自由にやっていいんだという免罪符を与えるきっかけとなった。

 

食への関心と家庭菜園

食への関心と家庭菜園

庭にオリーブの木を植えるというのは妻のアイデア。妻はヨーロッパでオリーブの美味しさに気がついて以来、日本でもオリーブをよく食べるようになったんだけど、彼女にいわせると、日本のオリーブ漬けはなにか違う感じがしたという。だから自ら育てて、自然に近い形の渋抜きに挑戦したりして、自分たちなりの理想のオリーブというものを探求している。秋に収穫したオリーブは今はパントリーでつけ込み中で、2023年バージョンを食べる日が待ち遠しい。

いま我が家では数種類のオリーブの木が2〜3本ずつ植えられていて、どの種類がうちの庭に合うのかを実験している段階。ここ数年は僕のほうがその気になっちゃって、小豆島までオリーブ栽培の視察しにいったり、よくオリーブについて調べるようになった。


どの種類がうちの庭に合うのかを実験している段階
自分たちが食べたい野菜を食べられる範囲で栽培している

オリーブや柑橘類を植えている果樹エリアの一段上に設けた畑では、季節ごとに自分たちが食べたい野菜を、食べられる範囲で栽培している。もう10年以上やっているけど、いまだに謎だらけ。サーフィンと一緒かも。

自分たちで育てるからこそ、やっぱり安心して食べられるものを。ケミカルを使わずとも、堆肥や雑草マルチをするだけでも充分野菜は育つ。種を買うときはできるだけF1種ではなく固定種を選び、豆類やオクラ、ライ麦などは、自分たちの畑で種取りをして、次の年に植えるなど、ちょっとした面倒も楽しい。


自分たちが食べるものだからこそ、安心して食べられるもの

こんな感じでファームtoテーブルを実践していると、採れたての野菜の美味しさがよくわかる。旬のものが日替わりでやってくるし、忙しくてスーパーにいけない日も、庭でちょっと収穫すれば食材が確保できるというのは、この生活ならではの喜びだ。それに、野菜や果樹を育てる醍醐味は食べ物を得るという点だけではないことも実感としてある。その過程や栽培方法に意識を向けたり、野菜が咲かせる花を愛でたりすれば、日々多くの発見を与えてくれる。こういうのを含めて、農的な暮らしは本当に豊かだと思う。

 

隠れ家的ベーカリー
「KUJIKA The Oven」

隠れ家的ベーカリー「KUJIKA The Oven」

我が家の一部はパン工房になっていて、「KUJIKA The Oven」という小さなクラフトベーカリーを経営している。サーフィンを終えて、満たされた気持ちで週末の家族との食卓を囲む。朝のひとときに妻が作った自家酵母のパンを食べてもらえたら。そんな思いで、金曜日の午後にパンを焼き上げて販売している。妻はおばあちゃんになってもパンを焼く気満々だし、今はこの週一営業が性に合っているし、僕たち自身が週末の家族の時間を大切にするという意味でも、ちょうどよかったりする。

妻がパン作りを始めたきっかけも、新婚旅行のファーム巡り。あるホストファミリーがパンを焼くというので手伝いがてら作り方を教わったんだけど、そのときに焼きたてのパンの美味しさに感動してしまった。そして、自分たちで焼いたパンを旅中にかじったとき、すごく贅沢な気分になったことを覚えている。

自分たちで焼いたパン

以来パンを自分で作るようになった妻は、移住したての頃、近所に住んでいた染色家の友人から彼女たちの酵母を分けてもらって、もう10年以上パン作りに情熱を燃やし続けている。今では継ぎ足し、継ぎ足しですっかり妻特製の酵母となり、それが我が家の秘伝の酵母に。彼女が本格的にベーカリーを始めたのはこの家を建ててから。自家消費だけでなく、たまに友人にお裾分けするパンが評判だったし、庭で育てたものを活用したいという考えから始めたんだけど、数年ベーカリーを経営していると仕事板に付いて、すっかり僕たちのライフワークの一つとなった。

  • ベーカリーを経営
  • パンを自分で作るようになった妻

定番のカンパーニュやバゲット、デニッシュ。バトン、エピ、ハーブを使ったスコーンも好評で、庭で採れた野菜や果実を取り入れることで季節ごとのバリエーションが生まれた。自分の背丈以上に伸びる麦穂が風に揺れる風景が欲しくて、ライ麦はここに居を構えてから毎冬種を蒔いている。

副材料の全部を自家製にできたら最高だな、なんて憧れはするけれど、そもそも僕たちはそこまでストイックじゃない性分みたい。自分たちがやりたいように、空き時間でサーフィンも楽しみながら、できる範囲で楽しんでやることが継続に繋がるんだと思う。


テラス

駐車スペース脇の斜面の上を利用したテラスは、お客さんに庭や向こうに見える海を見ながら、くつろいでもらいたいと思って作ったスペース。ここでは噛むごとに味わいを感じられる素朴なカンパーニュをかじってコーヒーを飲んでもらったり、僕たちが選んだオーガニックワインを飲んでもらえたらなと。実際はクルマでくるお客さんが多いからお酒はあまり出ないけど、オリーブとアンチョビを混ぜ込んだパンなんかは、赤ワインとの相性は最高だ。

 

みんなで時間を共有できる家

みんなで時間を共有できる家
薪割り担当

国道沿いではあるものの斜面に隠れているため、田舎暮らしらしい長閑さが感じられる我が家。食べものを育ててみたり、暖を取る薪を自力で確保したりっていうのは、自分たちの暮らしを自分たちが把握できる範囲の中でやってみたいという憧れからだろう。だから、スローライフは忙しい。

だけど、やっぱりこの感じこそが楽しさで、自由である証拠な気もする。現に薪ストーブひとつとっても、薪割り担当の僕は斧を振るうことに喜びを感じるときもあるし、着火担当の長男もいつも楽しんで火をいじくっている。

地元の設計士さんがデザインしてくれた我が家

僕たちが異国で見てきたファームハウスの写真をもとに、地元の設計士さんがデザインしてくれた我が家。薪ストーブのあるリビングダイニングを挟んで両サイドには、吹き抜けの2階が広がっている。常に家族の顔を見ながら過ごせるようにという僕たちの希望を、間仕切りの少ない空間作りで具現化してくれたのだ。

また、家のなかで一番明るい南側にキッチンを設けたのもこだわり。オープンキッチンにすることで、料理好きの妻がリビングにいる家族や来客と話せるよう設計してもらった。


庭を見渡すリビングで家族とパンを食べてる

家のなかに差し込んでくる眩しい朝日で目を覚まし、庭を見渡すリビングで家族とパンを食べて、畑作業や仕事をこなして、時間を縫ってはサーフィンをする。欲をいえば他にもやりたいことは沢山あるけれど、これ以上を望むっていうのは贅沢だろう。とりあえず今は、この幸せな日常を妻と、まだ小さな息子たちと一緒に噛み締めていたい。

KUJIKA The Oven

住所:
千葉県南房総市和田町海発454−1

営業時間:
毎週金曜 15:00-20:00

https://www.instagram.com/kujikatheoven/