STORY

ヴィンテージに魅せられて

ヴィンテージに魅せられて

僕の生まれは墨田区の石原。今は千葉の市川に住んでいるけど、縁があって隅田川の近くに友人とシェアガレージを借りていて、そこにシボレー・ベルエアを保管している。家から片道30分かけてそのガレージに行くのは少し骨が折れるけど、せっかくの天気だからとスペースエイジのアメ車で下町をドライブすることにした。

 

下町デイクルージング

下町デイクルージング

僕がハナタレ小僧だった頃と比べると隅田の風景もすっかり変わっているし、今やどこからでもスカイツリーが目に入るようになった。でも、まだところどころに時代に取り残された風景が広がっていたりするから、僕的にはちょっと安心。そういう場所を古いクルマの運転席から眺めていると、束の間その時代を見ているようで、なんかいいんだよね。

わざわざ自分よりも年上のクルマに乗っているくらいだから、僕はノスタルジックに浸るのも大好き。わざと下町の裏路地や、夜の銀座を走ったり、ザ・ピーナッツをかけてドライブしたり、ひとりでタイムスリップを楽しんだりしている。


年上のクルマ

もう30年ぐらい古くて変わったクルマに乗っているから慣れっこだけど、クルマで走っていると物珍しいのが来たぞと、視線をもらったり写真を撮られることがある。その気持ちって実は僕もすごくよく共感できる。なぜなら僕も常に運転席からこのクラシックカーを楽しんでいるからで、昔ながらの風景がウィンドウの向こうに広がっていると、テンションも上がるしカメラを向けたくもなる。

仕事が忙しくて半月ぶりに乗った60年式シボレー・ベルエア。昭和っぽい雰囲気を残しているかっぱ橋道具街も、Aピラーのないフロントガラス越しだとキラキラ輝いているように見えた。


レストラン

下町ドライブの最初の目的地は、ガレージからすぐのところにあるレストラン。サーフィン友達がやっている浅草のレストランで腹ごしらえをする。いつもは仲間と夜にワインを飲みにくることが多いけど、昼もランチが美味しくてリーズナブルだからか、かなり賑わっている。

ここのシェフはイタリアまで修行に行った本格派で、好きなことを仕事にしながらサーフィンも楽しんでいる、スタイルのある男。最近は釣りにも手を出し始めたらしい。


OSTERIA ITALINO

今日ここに立ち寄ったのは、美味しいパスタを食べるというのが目的だったけど、ランチ終わりに立ち話をしていたら、最近僕が趣味の延長で始めたオーダーメイドサーフフィンの話題になった。実は仕事の合間にはじめたフィン作りが結構形になってきて、ヴィンテージファブリックや草花を閉じ込んだものが割と好評。ちょうど新作を積んでたので彼にも見てもらった。


フィン
フィン

 

古いクルマと昔の記憶

古いクルマと昔の記憶

腹を満たしてサーフ談義に花を咲かせたあとは、あてどなく東京の街を走ってみた。もう記憶なんてうっすらとしかなくなったけど、昔はダットサンにのせられて築地に行って、親父の手伝いをしたこともあったな。なんてもの思いにふけながら。

振り返らずとも、僕のクルマ好きは間違いなくおじいちゃんと親父の影響だ。練りもの屋を営んでいたおじいちゃんは根っからのクルマ好きで、みんながクルマを持ってない時代から乗っていたらしいし、父もアメリカンカルチャーが好き。子どもの頃から知らず知らずのうちに、僕はいい時代のクルマに触れていた。

免許をとってすぐに買ったのは、クラウンのステーションワゴン。当時はオーディオを組むのが流行ってて、とっぽい感じにカスタムをしていた。アメ車との出会いは、クラウンに乗り出して一年もしない頃。知り合いに誘われてアメ車の集まりに行ったら、映画で見たようなクルマがわんさかやってきて。その実物のかっこよさにやられてすぐにシボレー・インパラに乗り換えた。


シボレー・インパラ

今持っているシボレーは、3年前から乗っている60年式のベルエア。ebayで買って、ワシントンから船で運ばれてやってきた。その前には51年のシボレー・スタイルラインにも乗っていたことがあるけど、デザインが違うっていうから乗っていて面白い。それ以前のアメリカのクルマは飛行機っぽいデザインが多かったけど、50年代から60年代にかけてだんだんロケットっぽくなっていくんだ。

 

どんな古いモノも、使ってナンボ

どんな古いモノも、使ってナンボ

今はこのシボレーと66年式のトヨペットの二台持ち。それまでは乗り換えて常に一台だけにしていたんだけど、状態の良いモノってそんなにポンポン出てくるもんじゃないからね……と言い訳をして、自分を甘やかしている。

市川の自宅とシェアガレージに一台ずつ置いて、たまにスイッチして両方を日常の足として使う。古いクルマに乗っていると「よく壊れないね」と心配されることもあるけど、昔の車も今と変わらず、割とテキトーに乗っていたもんだし、構造自体がシンプルだから点検と消耗パーツさえ交換していれば、そんなに困ることはない。それに人気のヴィンテージカーはアフターマーケットがすごくて、一部の外装を除いては、探して出てこないパーツのほうが少ないくらいなんだ。


シボレー・インパラ

僕が古いモノを実用するカッコさに、本当の意味で気がついたのは十数年前。当時はクルマのボディーワークの仕事をやっていて、カリフォルニアにある友人の店を手伝う機会があった。

向こうのヴィンテージカー乗りのステレオタイプは、昔からずっと大切に乗っているおじいさん。朝パーキングロットがあるドーナツ屋に仲間と集まって、クルマを眺めながらドーナツを食ってコーヒーを飲むみたいな。意外なことに、アメリカでは日常使いというより、コレクションとして持っている人がほとんどなんだとか。だけど僕の滞在していたLA近郊は、クラシックカーを実用的に乗っている人が多いエリア。古いのに乗って海にも山にもいくし、スーパーにも行く。そんな乗り方を目の当たりにしたから、ガンガン乗り回すべきなんだってお墨付きをもらった気がしてね。

 

ヴィンテージを
リベラルに楽しむ

  • ヴィンテージをリベラルに楽しむ
  • ヴィンテージをリベラルに楽しむ




フロントからサイドまで回り込むラップアラウンドウィンドウ。無駄に巨大なボディーに、キラキラしたメッキパーツ、そしてそそり立つテールフィン。今のクルマとは違う大国アメリカの豊かさを感じさせる、シボレーのデザイン。この時代のアメリカ車は、それぞれのグレードごとに設計がされていて、グレードや世代がちょっと違うだけで、装飾や内外装の使用がまるっきり異なっているから面白い。それだけに、カスタムじゃなくてオリジナルコンディションで探そうとすると結構大変なのだ。

  • ヴィンテージをリベラルに楽しむ
  • ヴィンテージをリベラルに楽しむ


日常的に使うっていうのも、一種の古いモノへのリスペクト。愛着があるからこそ乗りたいし、ガレージに仕舞い込んで自分だけが楽しむって感じにはしたくないという気持ちがある。

未来から見ると過去ってただの発展途上のものかもしれないけど、そのときにしか作れない魅力って絶対に思う。釣具だって同じことがいえて、今じゃ透明で丈夫で細いラインや、魚にとって魅力的なパターンのルアーがあるけど、あえて透明じゃない太い糸と重厚なリール、硬質なしなりのロッド、アクションのぎこちない昔のルアーでつるワクワク感は、今のものでは味わえない楽しさがある。

  • 100年前のバス釣りの道具
  • 100年前のバス釣りの道具


今と比べて圧倒的に構造がシンプルだった100年前のバス釣りの道具で、実際どこまで魚を騙せるか。純粋なコレクターからは怒られるかもだけど、そこが面白いんだよね。これってサーフィンでも似たようなことがいえて、最新のサーフボードって素材もシェイプも論理的に作られているけど、昔のロングボードは当時の解釈で作られてきたものも多い。だから今のモノにはない独特の乗り味のものが結構あって、当時の板でしかできない乗り方を追求している愛好家も少なくない。

古いもの好きって懐古主義の保守派って思われがちだけど、僕みたいに昔のモノをリスペクトをして、どれだけ今でも通用するのかを楽しむ、チャレンジャーな人も多いと思うんだよね。


未来に向かう

より良いものを生み出そうと、未来に向かっているのが人間という生き物。その一方で、無駄があるものにも惹かれたり過去に魅力を感じるというのもまた、人間という生き物の性……。

ひと足さきに満開を迎えた大寒桜を横目に、そんなことをぼんやりと考えた。

Instagram: @tama1951