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晴“行”雨読。梅雨に
読みたいアウトドアの本

晴“行”雨読。梅雨に読みたいアウトドアの本

今年の夏はどんなふうに過ごして、どんなふうに遊ぼうか。毎年必ずやってくる梅雨のシーズンは、盛夏を楽しむための準備期間。晴れたら行動すればよいし、外に出れない雨の日があればその分本でも読んでテンションを高めればよい。

今では情報やエンタメのアクセスもコンビニエントになったけれど、わざわざ本を探して、文字を追ってしか得られない栄養素が確かにあるのではないだろうか。ということで今回は趣向を変えて、この夏のアウトドアのモチベーションを上げる、おすすめの本を紹介する記事とさせていただいた。

本を紹介

 

ビーパル アウトドア
教本シリーズ

ビーパル アウトドア教本シリーズ

BE-PAL編集部/小学館

アウトドア雑誌「BE-PAL」で連載されていたHow To漫画の単行本です。1984〜1989年の間に全5冊が発行されていて、第1巻が劇画とアメコミをタッチで80年代に人気を博した御厨さと美さん、2巻はウルトラマンのコミカライズでも知られる内山まもるさん、3、4巻はデビュー後間もない時期の浦沢直樹さん、5巻は動物や食関係の作品を多く手がける本庄敬さんと、そうそうたる漫画家たちが作画を担当。毎話異なるテーマを掲げ、アウトドアの知識を紹介しています。


本の紹介

2巻目以降は「ビーパル小僧の」というタイトルになりますが、シリーズ第1巻は「ビーパルじいさんの」という冠で、ダンディなじいさんが主人公となって、ボビィ、パティ、ハイディの青年たちに知識を教える構成となっています。ハードボイルドなタッチと、外国人風なキャラクター、そして80年代中盤という時代背景もあいまって、今見ても超クール。

また、マンガのあとには編集部による用語解説と補足のTIPS紹介ページがあり、楽しみながら理解を深められるというのもポイントです。第1巻ではキャンプでの虫対策、ハードウォッチングの仕方、バイクトレッキング、野外トイレの知識など、15話分の内容が掲載されています。

本の紹介

シリーズ第3巻はYAWARA!連載前の浦沢直樹が漫画を担当。3人の高校生男子とその物理の先生、そして大学生のヒロインが登場して、アウトドア遊びでの知識を教えてくれます。昨今のアウトドア雑誌では自然遊びを体系的に紹介した記事が少ないように感じますが、当時のBE-PALでは、意外と知らない道具の基礎知識や植物採集、動物観察などの楽しみ方を、このようなわかりやすい見せ方で紹介していたのですね。ちなみに同シリーズはいずれも絶版なので、読みたい方は古本ハントに励みましょう。

 

フライフィッシャーマンの
絵本

フライフィッシャーマンの絵本

村上康成/小学館

自然や動物をテーマとした創作絵本を手がける絵本作家であり、ワイルドライフを描くイラストレーターである村上康成さん。その名もズバリなこの絵本は、フライフィッシャーマンでもある村上さんが釣りと関わる日々を綴った、ビジュアルエッセイです。1999年発行で、こちらも絶版。

本の紹介

水のなかで繰り広げられるヤマメのドラマを描いた絵本「ヤマメのピンク」シリーズや、「さかなつりにいこう!」など、釣り好きに愛される作品も多く発表している村上さんですが、この絵本は子どものために読み聞かせるような本ではなく、むしろ大人向けのネイチャーライティング。感性豊かな著者が感じた川辺や暮らしの出来事を、優しい語り口と可愛らしい絵で伝えています。

本の紹介

魚を釣り上げるだけではない、フライフィッシングの美学が表現された、情景が浮かんでくる村上さんのエッセイ。「最近遊びにいけてないなぁ」なんて思っているときにページをひらけば、その欲求が満たされたり、逆にフラストレーションになったり? いずれにせよこの絵本を読めば、森や渓流を散策するような、さわやかでワクワクする気持ちが沸き起こってくるはずです。

 

寒山の森のエッセイ

寒山の森のエッセイ

田渕義雄/ファイヤーサイド グッドライフプレス

自然派作家の田渕義雄さんは、日本のアウトドア黎明期を盛り上げた立役者のひとり。山登り、キャンピング 、フライフィッシングを愛し、アウトドアアクティビティの魅力を雑誌や著書で発表しました。1982年に日本一標高の高い村と言われている長野県川上村に移住し、彼の地からマウンテンライフを発信。作家を続ける傍らで園芸家、木工作家、薪ストーブ研究家としても活躍し、その暮らしぶりは山暮らしに憧れを持つアウトドアズマンに夢と希望を与えました。

森からの便り

軽快なテンポで綴られる寒山の営み、インテリジェントな考察、ときにアナーキーな物言い。晩年まで冴わたる田渕節。本作はファイヤーサイド社のウェブマガジン「森からの便り」にて連載していたブログ「きみがいなければ生きていけない」全94篇の中から47篇を抜粋、再編集したもの。2007年から2019年まで連載を続けていたエッセイを収録した田渕さんの遺作となる本で、ガーデニングや家庭菜園、趣味の釣りに木工、季節の食べ物や、知人とのやりとりなど、誰もが憧れるような豊かな暮らしの様子がユーモラスに綴られ、ご自身が撮った写真も添えられています。

本の紹介

田渕さんには山暮らしに関しての著書がいくつもありますが、こちらは13年という長きに渡る連載だったこともあり、日々の暮らしだけでなく、東日本大震災の原発事故や地球温暖化問題などに対する批判など、時事的な事柄に触れていているのも特徴。ロジカルかつユーモラスな田渕さんの哲学が凝縮されています。

アウトドアを愛した仙人がたどり着いた、自給自足的自然生活という究極のアウトドアアクティビティ。こんな暮らしを実践することはなかなか難しいかもしれませんが、最高にかっこいい先人の軌跡を追うことで、人生を豊かにするヒントが得られるはずです。

 

ドライブ・フィッシング

ドライブ・フィッシング

吉野 晁生/アテネ書房

自然の風景を描く画家で、数々の釣りの著書を持つ吉野晁生さんが執筆、アテネ書房という出版社から1981年に発行されたイラストと文で綴られる釣り場ガイド。表紙も可愛く、何気なく飾りたくなる一冊です。本のなかでは著者の住んでいた東京からアクセスしやすい、関東、甲信越、東海を中心に海・川を123箇所取り上げていて、「ドライブや旅行ついでにここに釣りに行ってみようかな」と、旅のガイドブック的に役立ってくれそうです。

本の紹介

釣り場のスケッチ、ロードマップ、釣り場のポイントの精図、仕掛けの解説なども充実していて、初心者からベテランまで学べる内容。かと思えば、しっかり旅行記としての面白さもあります。現地をおとづれた著者と、釣具屋の店主や地元の人との会話もほのぼのとしていて癒されますし、また時代がそうさせたのか、「ここはブラックバスがミミズで釣れる」「ブラックバスは刺身が美味しい」などの噂話も記述されていて、現代ではなかなかたどり着けないような情報に触れ合うことができるのも魅力。古い本ならではノスタルジーに触れられます。

本の紹介

しかし、発行から40年以上の時が流れているため、流石に釣り場のポイント(特に川釣りの場合)は様子が変わっていて参考にならないかもしれませんが、昔はこうだったなら、今ならここで釣れるかも? と、過去を読み解きながら推測して釣りに行くのも楽しそうですね。

 

釣れづれの四季

釣れづれの四季

矢口高雄/講談社

釣り漫画の第一人者であり「釣りキチ三平」の著者としてもお馴染みの、矢口高雄さんによる画文帖。この本は、矢口先生が漫画家としてデビューしてから10年の節目に当たる1980年に発行された、矢口先生が魚と釣り場に捧げるセレナーデ。30年にわたる釣り歴のなかで出会った思い出に残るシーンを、流麗なタッチの絵と味わい深い文で綴っています。

本の紹介

矢口先生のデビュー作は「鮎」。そして釣りキチ三平の第一話目も鮎釣りの話。そんな生粋の鮎釣りであった矢口先生が描く夏の風景となれば、当然解禁を待ちわびていた鮎釣り師が一斉に川で竿を並べているところです。今みると、さすがにこんなに密集して鮎の友釣りをしていたらすぐにライントラブルになるのでは? と訝しく思ってしまいますが、1970〜80年代に空前の鮎釣りブームがあったので、これも誇張ではない様子。ここからも日本独自の釣り文化の面白さが垣間見えます。

本の紹介

そのタイトルどおり、本書は釣りの情景を描いた珠玉の作品集ではありますが、実はその半分近くは季節の花や自然や田舎の風景について焦点が当てられています。どうしても外遊びはアクティビティそのものに集中しがちですが、アウトドア遊びの主役はやはり自然を感じること。矢口先生の随筆やイラストはその風景描写が素晴らしく、読めば「私も次はゆっくりと自然を見つめてみよう」という気持ちが沸き起こってくるでしょう。

 

日本百低山 
標高1500メートル以下の
名山100プラス1

日本百低山

小林泰彦/文藝春秋

小林泰彦さんといえば、70年代、MEN’S CLUBやPOPEYEなどの雑誌で活躍し、ヘビーデューティーという言葉を日本に広めた、イラストレーターであり、ルポライター。ファッションや海外のサブカルチャーの生き字引というイメージが強いですが、ご本人は高校時代から登山に親しんでいたそうで、数々の自然遊びの著作も持つアウトドアズマンでもあります。

本の紹介

日本百名山をもじった「日本百低山」は、1979年から「山と渓谷」にて小林さんが連載していた低山紀行「低山徘徊」の中から、2001年までに掲載したエッセイを厳選し、まとめて発表した一冊です。低山歩きの指南書としてヒットして、文芸春秋からは、1山追加した「標高1500メートル以下の名山100プラス1」との副題がつくバージョンも登場。携帯してどこでも読みやすい文庫版や、電子書籍が発売されています。 と訝しく思ってしまいますが、1970〜80年代に空前の鮎釣りブームがあったので、これも誇張ではない様子。ここからも日本独自の釣り文化の面白さが垣間見えます。

本の紹介

特別な装備を必要とせず、あまり遭難の危険も少なく、日帰りで楽しめる、そんな名低山を小林さんの目線で101山厳選。山容や標高、山頂の見晴らしだけではない魅力、そこでどのような楽しみがあったのかを、小林さんの言葉とイラストによるルポから知ることができます。親切にもそれぞれの山に関して登山の参考になる簡単な地図やアクセス方法、大まかな工程も書かれていますが、写真は一才ないのでこれから登る人に対してネタバレはなし。次の山行の参考にしつつも、実際の景色は自分の目で確かめたいという方にもおすすめです。

本の紹介

“ふつうの山歩きは、すばらしい景色とか高山植物とか残雪などが向こうから呼びかけてくるから、ただ歩いていても楽しめるけれど、低山歩きは、相手はみなれた里山だから、こちらから何かと呼びかけていかないと、発見もないし面白くもない。その代わり、こちらに好奇心や思い入れがあればおもしろさが引き出せるし、時には思いがけない発見があって驚いたり感動したりする。”(同書 p218より引用)

アウトドア遊びは、良くも悪くも個々の視点次第で異なる楽しさが待っています。だからときにはゆっくり読書をして、視野を広げて感受性を育むという時間を持つことは大切。そしてまたアウトドアに出かけて、身体と心で自然を思う存分感じましょう。