STORY

キャンプツーリングに
魅せられた男たち

好きを詰め込んだ週末ライド

僕が働く「影山輪業」は、横須賀にある1935年創業の老舗自転車店。うちの店では、最新の電動コンポーネントを搭載したスポーツバイクからキッズバイクや軽快車(いわゆるママチャリ)まで、さまざまなジャンルの自転車を扱っているが、一歩踏み込んだ趣味として、クロモリ製のマルチパーパスバイクをおすすめしている。一台でいろんな楽しみ方ができるその素晴らしさを伝えるべく、自店でキャンプツーリングイベントも開催していて、今日はそのイベントの当日。僕はお客さんと一緒に東京湾を渡り、一路南房総のキャンプ場へ。各々お気に入りのバイクに跨り、野を越え、山を越えていく。

 

長閑な房総の午後

長閑な房総の午後

今日はウチの店、影山輪業主催のキャンプツーリングイベント「KCO(カゲリン・キャンプ・アウト)」の1日目。小粋なサイクルステーションで昼休憩を取り、再び走り出したのは13時。ほぼ想定していたスケジュール通りに進んでいるし、あと2時間もペダルを漕げば目的のキャンプ場に辿り着くだろう。今回僕たちが走り抜けるのは、海、山、湖と、いろんな風景に出会える独自のルート。マルチパーパスバイクの総合力が体感できるよう午前中にわざと険しい峠越えの舗装林道を選んできたけど、後半は割とフラットなルートにしていたので、鼻歌まじりに田園風景を眺める余裕もあった。


いろんな風景

こういった集団でのツーリングはみんなでワイワイ楽しめるし、何かあったときに助けあうことができるというのもメリット。僕みたいなメカニックが帯同していれば大体のトラブルはリカバリーできるし、初心者が一歩踏みだすには、ショップのイベントに参加するというのは結構いい選択肢なのだ。こういったツーリングイベントは、バイクの魅力を再発見するまたとない機会であると同時に、自身のバイクの答え合わせの場としても最適。コンポーネントの仕様だったり、キャンプギアの選択、積載の仕方、服装のチョイスとか、そういう全部のフィールドテスト的な側面もあったりする。

キャンプツーリング

今回のキャンプツーリングの個人的テーマは、最近組んだ自転車のフィールドテスト。買い物などの街乗りをメインとして組んだこのバイクを、マルチパーパスバイクらしくプラスアルファの遊びとしてキャンプツーリングに駆り出した。街乗り用として組んでいるのでハッキリ言って速くはない。でも組んだばかりだったからどうしても乗りたかったんだ。

ルートの下見に来たときには手持ちで一番速いロードバイクで走ってたから余裕があったけど、こっちのバイクでは案の定体力を消耗する羽目になった。でもまあ、ハブダイナモライトが便利とか乗り心地が良かったとか、良くも悪くもマシンの個性をモロに感じられたし、欲望を満たせたということで……。

 

ゴールまではあと少し

ゴールまではあと少し

キャンプ場の少し手前にあるスーパーに立ち寄って、各々が食料の買い出し。僕はまずはビールとウイスキーをチェックして、それに合うような食べ物を探す作戦をとる。といっても僕は調理スキルは全然だから、買ったのは焼くかお湯を注ぐか、そのまま食べられるものだけ。本当は他の参加者のように房総ならではの海産物を使って料理ができたらいいんだろうけど、そこまでのモチベーションも腕もないから困ったものだ。

丘 ラストスパート

そして、ラストスパートに向けて再びバイクに乗車する。スーパーからキャンプ場までは15分くらいの距離で、ゴールは目前。里山と田んぼの間の道を通り抜ければ到着となるのだが、残念ながらキャンプ場があるのは急勾配を上がった丘の上。約50kmを走ってきた末の坂道はさすがにキツく、最後はみんなトボトボと自転車を押してのゴールとなった。

 

キャンプツーリングの美学

キャンプツーリングの美学

僕たちの今日の宿泊地は、みかん農園に併設された房総半島南東部にあるキャンプ場。外房の海を望む丘の上のエリアもあったけど、区画が限られていたので一番奥の静かで開けた林間サイトにテントを張ることにした。キャンプツーリングでは積載量が限られているので、オートキャンプと違って道具は軽量でコンパクト。基本的には登山をするときのような道具を使うことが多い。だからグループキャンプといっても、ソロキャンプおじさん……もといソロキャンプお兄さんたちの集まりって感じになるのだ。

お客さんにキャンプ経験値が高い方が多いので僕も勉強させてもらっているし、みんなそれぞれが刺激しあい、装備やスタイルがブラッシュアップされていくさまを見るのも、実は僕の毎回の楽しみだったりする。

  • キャンプツーリングの荷物
  • サドルバッグ

僕の場合その日乗るバイクによってスタイルは変えているものの、基本キャンプツーリングの荷物はバイクバッグの中にキッチリ納めるのが好み。今回のバイクにはフロントバスケットが装備されているので、そこに固定できるバスケットバッグと大型のサドルバッグだけで、すべての道具を収納することにした。

僕が初めてキャンプツーリングをしに大島に行ったときは、こんな便利なサイクルバッグなんて持ってなくて、バックパックを背負ってペダルを漕いで大変な思いをした。その経験があったから今の随分合理的なモノ選びに繋がっているんだけど、その一方で無駄で無謀なことをすることの楽しさに気が付く経験にもなった。だから僕はお客さんにバイクのアドバイスをするにしても、ひとつの物差しから他を否定するような「絶対〇〇したほうがいいですよ」という提案はしないように心がけている。

趣味の自転車

僕が働いている店はオールジャンルを取り扱っていることもあって、コレコレと価値観を押し付けることはない。もちろんオススメを聞かれれば、自分たちが考えるお客さんにとってのベストな提案はさせてもらうけど、個性や要望を尊重して、フルパワーで力添えするっていうのがウチのスタンスだ。

結局、レースでの勝利や記録を狙う以外では、趣味はどこまでいっても自己満足の世界。正解は自分のなかにだけあるのだ。この辺の意見は店長と一致していて、その思いはウチのお客さんにも伝わっていると思う。

 

旅の途中で再会を誓う

旅の途中で再会を誓う 落ちてる枝で食事

なんとか太陽が山裾に隠れる前にテントの設営を完了。朝から動きっぱなしだったけど、やっと腰を落ち着けてノンビリできる時間がやってきた。

早々に寝床を作った人たちは、明るいうちにシャワーに行って大量にかいた汗を流しに。とりあえず動きたくなかった僕は、焚き火をはじめてチルタイムを満喫する。途中でカトラリーをすべて忘れるという失態に気がついたけど、そこは落ちてる枝を使ってカバー。乾杯の前にいち早く自分のおつまみ兼おやつを用意した。

サイクリストたちはジュースを片手に喜びを分かち合う

そして、待ちに待った乾杯の儀。この一杯のために俺たちは頑張ったんだと、大人たちは酒を、若きサイクリストたちはジュースを片手に喜びを分かち合う。

僕たちにとって、自転車、お酒、キャンプというのは極上のコミュニケーションツール。もうここまでくれば初対面の人同士もすっかり打ち解けて、個々で遊びに行く計画も立てられていた様子。うちのお客さんがお互いに仲良くなってくれると単純に店員の僕も嬉しいし、同じ喜びを共有できる仲間が近いところにいるっていうのは、自転車趣味を楽しむうえでかなり大きな財産だと思う。

記念写真

まだみんなが正気なうちに記念写真を撮った後は、全員協力で薪割り大会を開催。翌日も50kmほど走るというのに、この日は日付が変わるまで焚き火を囲んで、肌寒い春の夜を満喫した。

今回初めてキャンプツーリングに参加したお客さんも楽しんでくれたようで、「次回も必ず参加する」と言ってもらったときは、本当にこのKCOを企画してよかったなとジンワリきてしまった。次回のイベントの舞台は、僕がキャンプツーリングにハマった思い出の地でもある伊豆大島。その計画はお客さんと一緒に作ることになっているので、どんな旅になるかは僕らにも未知数でワクワクしている。

Instagram: @ryoma_kagebikes
@kagebikes