STORY
カブトムシ・クワガタと
戯れる夏
〜採集編〜

子どもたちの夏休みもはじまり、いよいよ夏本番。子どもたちから昆虫採集に行こうとせがまれているパパやママも少なくないはず。 そこで今回は写真作家であり、カブトムシ・クワガタマスターである安藤 アン 誠起さんをゲストに迎え、その魅力とカブクワ採集の心得を教えていただきました。
キャンプや川遊びなど、自然に出かけることも多くなるこれからのシーズンは、昆虫採集の大チャンス。ちょっとしたコツを覚えて、この夏を楽しみ尽くしましょう。
マスター直伝!
カブトムシ・クワガタ採集講座

俳優やタレントなどのポートレート撮影を得意とする一方で、旅やジビエ、アウトドア関係の撮影、執筆も行っている写真作家の安藤 アン 誠起さん。日本中、世界中のクワガタを写真に収めることもライフワークとしていて、夏になると子どもたちやお父さんに向けたカブクワのワークショップや、採集、飼育の講座の講師として全国を飛び回っています。

これらは安藤さんが撮影と執筆を手がけた、カブトムシ・クワガタの著書。子どもの頃から昆虫採集が上手で、採集と飼育にのめり込み、大人になった今もその情熱は衰えず、常に自宅では20匹以上をブリーディング。日本に生息しているカブクワ全種類と、その亜種を写真におさめることをライフワークにされています。
今回の記事は、奥深いカブクワの世界に触れる第一歩として、それぞれの簡単な基礎知識と採集テクニックをご紹介します。
採集するための基礎知識

今回僕がカブクワ探しにやってきたのは東京都内の公園。大自然に行かないと見つけられないのでは? と思われるかもしれませんが、実は緑豊かな公園があれば意外にも都会にもカブクワが生息しています。
初心者の方でも、ある程度の知識とコツさえ覚えれば、意外と簡単に採集できちゃうんです。
もちろん、カブトムシとクワガタムシは、種の違いや生態の違いがあったりするので、飼育の仕方はそれぞれで異なるものの、基本的な採集の仕方に関してはほとんど一緒。まずは道具を揃えて捕まえに行きましょう。

採集に必要な道具の三種の神器は、虫かご、虫とり網、そしてライトです。カゴは虫たちを入れやすく、しっかりと密閉できるものを。虫とり網は、手が届かない高所にいる虫を捕まえるときに活躍します。ライトは夜間の虫探しには必須で、日中日陰を見るときにも便利。ヘッドライトは手の自由度が高く、手持ちのライトは捜索範囲が広く確保できます。
その他、土を掘る際のスコップや手袋、ピンセット、蜜を塗るときに使うハケもあるとさらにGOOD。また、自然にはカブクワだけではなく、ヤブ蚊も当然いるので、虫よけや虫さされ薬も忘れず持っていきましょう。

いざオスのカブトムシ・クワガタを見つけたときに、初心者がやりがちなミスが大きなツノ(頭角)を持ってしまうことです。木などにしっかりしがみついた彼らの力は強く、大きなツノを持って引き剥がそうとすると、カブトムシが飛ぼうとして翅を広げることも! そうするビックリして手を離してしまうことになってしまいます。また、脚を持つというのも、鋭い爪で怪我しかねないので避けましょう。
もっともスタンダードな持ち方は、胴体の横をつまむように持つやり方。これなら指に力が入れやすく、脚をジタバタされても指に当たることがありません。

またオスのカブトムシであれば、小さいほうのツノを持つのもOK。この胸角と呼ばれる小さいツノを持てば、カブトムシのカラダも安定して掴むことができるので、木にしがみついた状態からでも引き離しやすいんです。
まずは日中に下見をしよう!

いくら大自然が広がっていても、闇雲に探していたのでは見つかるものも見つかりません。逆に、最低限どんな場所にカブクワが集まっているかを知っていれば、都会の雑木林でもきちんと見つけることができるんです。カブクワは日中は土の中などに隠れていますが、昼のうちに採取するポイントを下見をして、どこに目的の木があって、どこに樹液が出ているのかチェックしましょう。
特に彼らが好んで集まるのは、クヌギやコナラの木。普段は樹液を食べて生きているので、これらの広葉樹を見つけるのが、最も手っ取り早い方法です。カブクワの種類や生態だけでなく、生育環境について知ることで自然環境にも親しんでみてください!
クヌギは丸いドングリを実らせる木で、日本全国の広い範囲で見つけることができます。幹は、凸凹がはっきりしていて濃い灰褐色。葉っぱは細長くて葉先が尖っており、ギザギザのトゲがはっきり見てとれます。また夏の間は枝の間にニョロニョロした緑色のイガがあって、これも判別に役立ちます。
コナラは細長いドングリの実をつける広葉樹。樹皮は灰黒色で、縦に不規則な裂け目が入っているのが特徴。葉っぱは楕円形で葉先のほうが幅広くなっていて、先端が尖っています。かつては薪炭に使うため民家の近くに植栽されたそうで、北海道と沖縄を除く広い範囲で見られます。
成功率を上げる
テクニックを伝授

昼間は樹皮に集まっているカブトムシ・クワガタを見つけることは稀ですが、木の根っこのほうに隠れている場合もあるので、日中に下見をするなら根本を少しだけ掘ってみるのもアリ。もちろん、掘ったら土は元どおりに戻すまでがワンセットです。

せっかく日中に下見をするなら、ついでにカブクワを誘い出すバナナトラップを設置してみましょう。
作り方は簡単で、焼酎1カップに砂糖1/2カップをジップロックに入れて攪拌。その後、バナナ1本を投入して軽く揉み込み、ジップロックの口をしっかりと閉じて、1〜2日間ほど太陽に当てたり暖かいところに放置。発酵したら秘密のミツは完成です。
これをストッキングに入れて紐でくくり、木に結びつければ準備万端。余ったミツも樹皮に塗って、一日ほど時間を置くと効果的。ちなみにトラップを仕掛ける木は、樹液の出ていない木を選ぶのがセオリーです。

ただし、仕掛けたトラップは必ず回収することをお忘れなく。バナナトラップの効果は持続して数日。その間毎日確認するならよいのですが、仕掛けっぱなしで放置するのは、ゴミのポイ捨てと変わりません。環境に悪影響を与えないよう、マナーを守って自然と戯れましょう。
いざ、カブクワ探しの本番!

カブクワ探しは気温が高い6月後半〜8月いっぱいがシーズンですが、なかでも日が沈んで暗くなった夜のタイミングがベストです。ライト片手に、大人と一緒に出かけましょう。ちなみに雨が降るとカブクワの活動が鈍ってあまり動き回らないので、晴れや曇りの日の夜に探すと成功率も上がります。
この日、僕が再び公園にやってきたのは深夜0時。もう少し早い時間でもカブクワの捕獲には問題がないのですが、子どもたちは夏休み。若きカブクワハンターも多い都内の公園なので、僕は少し時間帯をずらして遅めにやってきました。

日中に下見をしていたポイントをめぐると、まずは樹液が滲み出ていたクヌギの木にカブトムシ♀を発見!
遠くから木にライトを当てて、手や虫とり網で届く範囲のところに何かがいないか、素早くチェックするのがポイントです。長時間ライトを当てていると虫が逃げてしまうこともあるので、発見したら素早く捕まえると良いでしょう。

明るく照らせる高輝度のライトは、木の表面に光を当てたときに虫の姿がはっきりと確認できるのでオススメ。小型のノコギリクワガタ♂も、その陰影ですぐに見つけることができました。

昆虫採集歴40年以上の僕は、釣竿をカスタムしてリーチを長くした特製の虫とり網を使いながら、高所にいるカブトムシをGET。虫とり網で捕獲するときは、虫たちの身体を傷つけないよう、優しく網の縁を当てて、うまくネットに収めるようにするのが鉄則です。

また、例え樹液に群がっている虫がいなくても諦めるべからず。目だけで探そうとせず、樹液や尿に由来する独特のカブトムシ臭をキャッチするなど、五感を研ぎ澄ませましょう。
見逃しがちですが、木の窪みや幹と幹の間の小さな隙間もクワガタが好きな場所。ライトを当てよく見たら、コクワガタのメスがしっかり隠れていました。こういうときのために、ピンセットが必要なんですよね!
バナナトラップ大成功!?

その日の昼に仕掛けておいたバナナトラップがあるポイントにやってくると、なんと5匹ものカブトムシが集まっていました。もう1日くらい置いておかないとカブクワは来ないかなぁ?...とも思ったのですが、バナナトラップの効果が炸裂。いつもと違う蜜の味に、グルメな子たちが集まってきたようです。


目をつけていた木を一通り回り終えても、決して気を緩めないのがカブクワマスターへの道です。
戻りがてら、これまでチェックしてきた木をもう一度見直すと、あとからやってきた個体と鉢合わせすることができたりするもの。粘り強く先ほどと同じ木をみていたら、大型のノコギリクワガタ♂に遭遇できました。

この夜、1時間程度探し回って捕獲できたのは、カブトムシ♂7匹、♀13匹。コクワガタ♂♀各1匹、ノコギリクワガタ♂3匹。合計25匹。さすがにこんなには飼えないので、獲りすぎた分はもともといたエリアに放虫しましたが、今回の記事を通して、都内の公園でもちゃんと探せばこのような成果をあげることもできる……ということがお分かりいただけたでしょう。
さて、カブクワハンティングの楽しさを知ったあと、次に進むべきステップは飼育です。次回の記事では、捕まえたカブトムシ・クワガタを家に連れて帰って観察できるよう、飼育の仕方をレクチャーします!