STORY

カブトムシ・クワガタと
戯れる夏

〜飼育編〜

カブトムシ・クワガタと戯れる夏 〜飼育編〜

前回の記事では、写真作家であり、カブトムシ・クワガタマスターである安藤 アン 誠起さんを講師に迎え、採集のコツを紹介。実際に夜の公園でたくさんの昆虫たちに出会うことができました。
しかし、カブクワは捕まえるだけでなく、飼って観察をすることも楽しいものです。後編の記事では安藤さんが改めてカブクワの生態を教えてくれて、お家でできる種類別の飼育方法をレクチャーしてくれます。

 

昆虫採集・飼育から
大切なことを学ぶ

昆虫採集・飼育から大切なことを学ぶ

カブトムシ・クワガタに造詣が深く、写真作家でありながら何冊ものカブクワに関する著書をお持ちの安藤さん(下の写真)。写真撮影のかたわら、野外での体験講座や親子間のコミュニケーションを深める講座の講師も務めていて、なかでもカブトムシ・クワガタの飼育は人気のコンテンツだといいます。

カブトムシ・クワガタの著書

しかし、いくら小さな昆虫でも、飼育は生き物の命を預かるということに違いはありません。お子さんと一緒に飼育を始めるなら、大人がしっかりと知識を持ってサポートし、取り組むことも必要になってきます。この機会にカブトムシ・クワガタのことを知って飼育をすれば、カブクワの飼育は夏だけでなく、一年を通して楽しみ、観察できる対象だということがわかってくるはずです。

 

カブクワを飼うということ

カブクワを飼うということ

僕は子どもの頃からカブトムシやクワガタを捕まえるのが得意で、夏になるたびに採集や飼育を繰り返していたら、どんどん珍しい種類にも興味が出てきて、大人になった今でもカブクワ探しに情熱を燃やしています(笑)。
国内にカブトムシと呼ばれるものは亜種を除くと6種類で、本土には2種類。その1種はいわゆるヤマトカブトムシという、僕らが想像する立派な頭角を持ったカブトムシで、もう1種はコカブトムシというオスでもツノの小さいものがいます。一方で国内に生息するクワガタムシは約40種類。さらにその亜種と呼ばれているものも、それ相当の数がいます。僕は日本にいる全種類のカブクワを写真に収めることを人生の目標に掲げ、数十年に渡ってカブクワを追い求めているのですが、それでも何種類かはまだ写真が撮れていません。

お馴染みのカブトムシ

僕は家でも何種類かのカブクワを飼育していて、つがいで飼って卵を産んでもらって、成虫まで育てるというブリーディングもやっています。最初は誰しもオスの成虫のカッコ良さに惹かれて興味を持つと思いますが、カブトムシやクワガタは、卵から幼虫になり、サナギ、そして成虫になるという完全変態の昆虫。成長過程ごとに観察する楽しみがあり、各過程ごとにカラダが変化していくのを観察するのは、何ものにも変え難い面白さがあります。
ちなみに、前述したお馴染みのカブトムシの一生は、基本的に一年サイクル。そのうち、成虫としての寿命は2、3ヶ月程度しかありません。一方のクワガタムシは種類によっては成虫となっても、もう少し長生きをするものも。ノコギリクワガタやミヤマクワガタのように越冬しない種は成虫の寿命は2、3ヶ月程度ですが、オオクワガタやコクワガタなどに代表される越冬する種は、うまく飼育できれば、成虫で数年生き続けることができます。以上の生態からもわかるとおり、カブトムシとクワガタは一緒くたに括られることがありますが、飼育のうえではそれぞれの種の生態に合わせて、環境を作らなければなりません。

 

飼育に必要な道具

飼育に必要な道具

飼育環境の作り方はのちほど説明をしますが、ひとまずカブクワ飼育に共通した、必要な道具や材料などをご紹介。
捕まえたカブクワは、彼らが暮らしやすい環境をしっかりと整えてあげる必要があります。そのために必須なのが、昆虫たちの家となる飼育ケース、床にあたる発酵マット(土)、ムシたちがひっくり返るのを防いでくれるとまり木や樹皮、クワガタムシなら産卵木。そして彼らが隠れられるように樹の葉などもあると良いでしょう。
ケースの大きさは、成虫を単体で飼うならそこまで大きくなくとも良いですが、つがいで飼育するならば長い方の幅が30cm以上のサイズが欲しいところ。カブトムシのメスは、ある種の空間認識能力があるようで、この広さの空間にはどれくらい卵を産めばいいのかを感じているようなところがあります。なので産卵も目的とするなら、ケースはなるべく大きめのサイズを選ぶと良いでしょう。ちなみにケースはコバエが侵入しにくい形状の通気孔を持つタイプや、ディフェンスシートを使うのがベターです。

ゼリータイプのエサ

成虫を飼育する際に最も扱いやすいのがゼリータイプのエサ。栄養素も計算されたものが販売されていて、オスの成虫が食べやすい平形の形状をしているものがあったり、より栄養を必要とするクワガタ向けのものがあったりと、種類は様々。ペットショップやホームセンター、通販などで購入できます。

エサにするなら、比較的水分が少ないリンゴやバナナがおすすめ

実際に野菜や果物をエサにするなら、比較的水分が少ないリンゴやバナナがおすすめ。逆に、避けたいのは定番っぽいイメージのあるスイカです。スイカは水分が多く痛みやすいし、カブクワたちの糞尿が水っぽくなって、健康状態にも影響が出ます。また、それによって飼育ケースも汚れやすくなってしまいます。清潔に飼ってあげることはカブクワたちの長生きにも繋がるので、その辺りは十分にケアしたいところです。

 

カブトムシの
飼育環境を整えよう

カブトムシの飼育環境を整えよう

いずれも10分もあれば完了する簡単な作業ですが、飼育環境作りは昆虫たちが快適に暮らせるか、ひいては卵を産んでくれるかを左右する大きなファクター。まずは彼らの生態を理解しながら、基本となるカブトムシ向けの飼育環境を作っていきます。

土入れ

カブトムシが産卵するのは土の中。それだけに第一段階である土入れはとっても重要です。この際に用意するのは普通の土でなく、発酵マットというクヌギやコナラを粉砕して発酵させた、栄養分が含まれたものを購入して使いましょう。この発酵マットは成虫が過ごすための床でもあるのですが、卵を産み付けて、やがては幼虫たちが成長するための重要なエサの役割も果たしてくれるのです。

栄養のあるエサを切らさないこと

カブクワなどの甲虫類は成虫になってからはカラダが大きくならないので、大きな個体を育てるには幼虫の段階で大きく育てる必要があります。メスが産んだ卵が孵って幼虫が生まれ、1回目の脱皮で2令幼虫になり、そのあと3令幼虫になり、3度目の脱皮でサナギとなっていきますが、それまでに栄養のあるエサ(発酵マット)を切らさないことが、大物を育てるためのポイントになります。

表面を押し固める

前置きが長くなりましたが、ファーストステップはスクープなどを使いながら飼育ケース内に土を入れる作業。まずは底面から3、4cmほどまで敷き詰め、そのあと瓶の底などを使って表面を押し固めてください。カブトムシのメスはこの土を固めた部分に産卵する場合も多いため、このひと手間は惜しまず行いましょう!

2層目を作ります

そして、先ほど押し固めた土の上にさらに土を追加して2層目を作ります。カブトムシが潜れるように大体10cmほど土を追加したら、今度は表面を押し固めずに軽くならせば床部分は完成です。メスを飼って産卵を目的とする場合には、たまに霧吹きして土を少ししっとりさせた状態をキープしてあげてください。

とまり木や枝、樹の葉などを配置

最後にとまり木や枝、樹の葉などを配置します。カブトムシがひっくり返って起きれないと寿命が短くなる原因となってしまうので、カブトムシがしっかり掴んで自力で起き上がれるよう、とまり木を配置してあげましょう。またゼリー用の餌台があるとカブトムシが木に掴まって食事しやすいですし、結果的に周りも汚れにくくなるので設置をおすすめします。

フタをすれば完成

こうして準備が整ったら、カブトムシを入れてフタをすれば完成です。成虫を長生きさせたいなら交尾をさせないよう単体飼育。また、卵を産んでブリーディングしたい場合は、1ケース内にオスとメスを1匹ずつを入れてみましょう。特にオスを2匹以上入れるとケンカをしてしまうので注意が必要です。飼育ケースは直射日光の当たらない、少し暗い涼しい場所に置くようにしましょう。僕の経験上、夜はしっかり暗くなるようにしないと産卵してくれないので、リビングなどで飼う場合は夜は覆いを被せてケース内を暗くするなどの工夫が必要です。

 

ネクストステップは
クワガタの飼育

ネクストステップはクワガタの飼育

続いてクワガタの飼育方法ですが、その難易度はカブトムシより高めです。なぜなら種によっては1年でなく2年間以上幼虫として過ごすものもいたり、同じ種でも羽化する時期が違ったりして、そのクワガタによって異なるセッティングが必要になるからなんです。
クワガタの飼育方法は、産卵する場所によって大きく3つのタイプに分けられます。まず、オオクワガタやコクワガタのように木の中に卵を産むタイプ。次に、ノコギリクワガタのように木にも土にも卵を産むタイプ。そして、ミヤマクワガタのように土に卵を産むタイプです。クワガタの飼育環境を作る際、木に産卵するタイプはあまり栄養価が高くない土でも問題ありませんが、土に卵を産むタイプは栄養が豊富な土が必要なので、質の高い発酵マットを用意する必要があります。

ノコギリクワガタ向けの飼育環境

種類ごとの飼育方法を述べるとキリがないのですが、今回は日本国内で広く生息しているノコギリクワガタ向けの飼育環境作りをご紹介します。用意するものはカブトムシとほとんど一緒で、発酵マットを2層にして敷き詰めるところまでは、カブトムシ編とまったく同じです。

産卵木を設置

カブトムシの家作りと大きく違うのは、とまり木の代わりに産卵木を設置するという点です。ノコギリクワガタは土の中にも木の中に卵を産みつけるので、産卵に適した木を用意する必要があるんです。産卵木に適しているのは、立ち枯れたクヌギやコナラの木。こちらもクワガタの飼育用品を扱っているようなペットショップやホームセンターで入手可能です。
産卵木を用意したら、スクレイパーやマイナスドライバーなどを使って樹皮を剥いてください。このあたりは全部を剥く人と、樹皮を残す人とで分かれるんですが、今回は2本用意して、1本を完全に樹皮のない状態にして、もう1本は半分ほど樹皮を残しました。個体によって好みの木があるようで、選択肢を与えるためにもケース内に2、3本産卵木を入れると良いでしょう。

土は軽くならす程度

カブトムシの場合は止まり木として木を入れますが、ノコギリクワガタの場合は産卵してもらうための木を入れるので、産卵木が半分埋まるくらいの土を追加します。このとき土は押し固めず、軽くならす程度にしておきましょう。

葉っぱを軽く置く

そして、最後に自然に近い環境に近づけるため、クヌギやコナラの葉っぱを軽く置いてあげて、彼らに休憩スペースを作ってあげましょう。この葉っぱは加えることで、よりよい繁殖環境を作り出すとともに、土の乾燥を防いでくれる役割も果たします。
以上がノコギリクワガタのお家の作り方でした。彼らの成虫での寿命は3ヶ月ほどですが、この方法でオスメスをつがいで飼育して、うまくいけば産卵し、命のサイクルを目の当たりにできるかもしれません。

 

まずはカブトムシの飼育から
挑戦してみては?

まずはカブトムシの飼育から挑戦してみては?

今回はカブクワのベーシックな飼育環境づくりをご紹介してきましたが、クワガタの飼育は栄養価が高い発酵マットやエサを用意したり、種によっては成虫や幼虫の飼育期間が長かったりと、さまざまなコストもかかるので、産卵を目的とするなら、初心者の方はカブトムシから飼育するのがおすすめです。

最後に大事なことをもうひとつ。今回僕がここでご紹介したことが飼育のすべてではありません。皆さんも本やインターネットなどで知識を得るのはもちろん、実際に飼育してどんどん経験値を増やしていきましょう。子どもたちのカブクワ採集や飼育は、大人が知識を与えてサポートしてあげることで、より大きな成果をもたらすもの。カブクワ飼育を親子間のコミュニケーションツールとして、自然遊びの楽しさ、命の大切さを伝えていきましょう。