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年始に踏み出す新たな一歩

年始に踏み出す新たな一歩

昨年の夏に転職してからは新しい業界でフルスロットルで働き、充実感を感じている今日この頃。土日もちゃんと休めるけど、有給はまだ使っていないから三連休以上の休みはお盆休みぶりだ。そんな待ちに待った長い年末年始の休みも、だらっと過ごしていたらいつの間にか半分が過ぎてしまった。新年早々これじゃあまずいと思って、重い腰を上げて、新しい挑戦に踏み出してみることにした。

 

新春の思いつき

新春の思いつき

9連休とまとまった休みとなった今年の年末年始は、意外とすぐにすることがなくなった。実家住まいの僕には帰る田舎もなく、正月だからといえど、あまり普段とは変わり映えしない日常があった。すでにテレビの正月番組にも見飽きて、SNSのあけおめ投稿もチェック済み。元旦に神社で「今年は新しいことに挑戦して楽しい一年にします」と神様に誓ったはずなのに、気付けばいつもどおりに過ごしている……。

  • クルマ移動

  • クルマ移動

このままではいけない。そう思って家をうろうろしていると、目に留まったのが父の釣り道具だった。前々から挑戦したいと思っていたけど、なかなか始めるタイミングがなかった海釣り。今日は兄のジムニーを借りることができるし、今行かなければまた後回しになるだろうし、思い切って昼過ぎに釣りに出かけたのだった。

世間はそれぞれの故郷や旅先に出たのか、東京都内はいつもより外を歩いている人が少ない気がするし、クルマ移動も思いのほかスムーズ。とはいえ、繁華街だけは初売りセール目当ての人々で大賑わいだ。銀座で信号待ちをしている間、福袋を手にした買い物客が楽しげに歩く姿をいくつも目にした。

コンビニ

浮き立つ買い物客を横目に晴海通りを進み、向かったのは一軒のコンビニ。僕が売り切れて欲しくないと切に願っていたのは、ブランドの福袋などではなく、サビキ釣りに使うオキアミ。家の近くの釣具屋が正月休みだったので、釣り場近くのこの店に賭けるしかなかったのだ。

結果的には問題なくオキアミをゲットできて一安心。釣りを始める前からスリリングな冒険をしている気分になった。

 

東京湾に糸を垂らして

東京湾に糸を垂らして

海釣りは親父に連れられて子供の頃に何度かやったことはある。そのときもルアーなんてオシャレなものを投げる釣りじゃなくて、エサをつけて地道に堤防から獲物がかかるのを待つサビキ釣り。子供の頃はバス釣りに憧れていたこともあって、エサ釣りに最後まで集中力が続かなかったけど、なんだか今なら楽しくできる気がしたんだ。

若洲公園

やってきた場所は、東京の釣りのメッカである若洲公園。初心者は初心者らしく王道から攻めようと考えたのだった。

東京とはいえ冬の海辺は風が強くてさすがに寒く、ちゃんと防寒対策をしてきた自分を褒めたい。というのも、これも釣り好きな親父の入れ知恵。暖かくしつつも動きやすいウェアを着ることは重要だとのことで、ウェアもひととおり親父から借りてきてよかった。

東京湾

ポイントについた頃には、冬の日の短さを実感させられるような夕暮れを訪れていた。空はオレンジ色に染まり、対岸のビル群がシルエットとなって映える。東京湾は僕の思っていた以上に水面が激しく揺れていて、太陽の反射光と海のうねり、コントラストが美しいと思った。

東京ゲートブリッジ

東京ゲートブリッジのたもとにある防波堤で竿を出したのは午後4時ごろ。昼から釣っていたであろう釣り客たち何人かとすれ違ったけど、そのクーラーボックスに魚影は無さそうだ。それに「まだ魚たちも正月休みみたいだな」という会話も聞こえてきたから、きっとシブいのだろう。まあ、それは覚悟のうえ。ベテランっぽいおじさんも釣れていないのなら、ビギナーズラックを信じるしかないのだ。

仕掛け

記憶をたどりつつ、仕掛けの裏に描かれた情報を見つつ、仕掛けをセット。あらかたのセッティングを終えて仕掛けを海へ投入した。ラインに神経を集中させるとオモリが底につく感覚がわかり、同時に水深があまり深くないということも理解できた。

サビキ釣りは地味だけれど、仕掛けが落ちていくあの瞬間、何かがかかるかもしれないという期待感が込み上げてくる。ロッドを握る手に伝わる細かな振動と、静かに海面を見つめる時間。普段の仕事では味わえない、待つことの贅沢さを初めて感じたような気がする。

道具

子供の頃は待つことが退屈だったけど、今になるとこうした余裕のある時間の過ごし方も悪くないなと思えてくる。海の中を想像して、ロッドをしゃくり、たまにコマセを追加。どうすれば小アジたちにとって魅力的に見えるだろうか。小アジが釣れたら彼女になめろうを作ってあげようとか、とりとめもなく思考を巡らせた。

 

今年最初のボウズの日

今年最初のボウズの日

しかし、そうやって糸を垂らしていたからといって魚がかかるほど、冬の若洲公園は甘くなかった。30分、1時間と経っても、魚の反応はまったくなし。周囲の釣り人も、何度か仕掛けを投入しては引き上げるものの、成果は芳しくない様子だった。

僕は夕まずめを狙ってきたけど、先客たちは次々と釣り場をあとにしていく。それでも、釣れないという事実そのものが、逆に僕を夢中にさせた。何がいけないのだろうか? エサの付け方? 投入するタイミング? それともポイント選びそのものが間違っていたのか?

釣りに集中

しばらくすると、ふと気がついた。僕はいま、釣れるか釣れないかよりも、この時間そのものを楽しんでいるのだと。

釣り初心者がそんなことを思うのはちょっとイタいのかもしれないが、冷たい風にさらされながらも釣りに集中しているこの瞬間が、思いのほか心地よかったのだ。

 

次の一歩への原動力

次の一歩への原動力

寒波に耐え忍びながら夜の7時まで粘ったものの、この日はボウズのまま終わった。もちろん釣れなかった悔しさはあったけど、それよりも1人で釣りに来れたことに対する達成感が上回った。

ジムニーの暖房をマックスにして、凍える身体を温めながら帰路に着く。「次は少し早起きして、朝まずめを狙ってみよう」「釣り場を変えるのもありかもしれない」。僕の頭のなかでは早くも次の計画が浮かんでいた。

東京ゲートブリッジ

また仕事が始まれば忙しい日々が戻ってくるだろう。でもこれからは、時間を作っては釣りに没頭し、失敗を楽しみながらも自分と向き合う時間を作っていきたい。新たな挑戦が次の一歩をより楽しくしてくれる、今はそんな気がしているんだ。