STORY

“世界最高のメガネ屋(高度)”星野誠さんが語る
高所登山とアイウェア

“世界最高のメガネ屋(高度)”星野誠さんが語る高所登山とアイウェア

INTERVIEW
誠眼鏡店 オーナー 星野誠さん

新宿・銀座に店舗を構える「誠眼鏡店(まことがんきょうてん)」。常に新しいアイウェアを提案し続ける代表・星野誠さんは、登山未経験から約3年で世界七大陸最高峰+エベレストの登頂を果たしたという異色の人物です。しかし、そんな偉業を成し遂げた星野さんにとってそれはあくまで通過点のひとつで、目指す人生の到達点は別の場所にあるといいます。今回はいつもと趣向を変えたインタビュー記事。質問を重ねるうちに、星野さんの一風変わったアウトドア観と、人生の壮大な目標の話に繋がっていきました。

 

大都会にひっそりと佇む
メガネ屋さん
「誠眼鏡店」

大都会にひっそりと佇むメガネ屋さん「誠眼鏡店」

ーまずは誠眼鏡店というお店について
教えていただけますか?

誠眼鏡店は銀座と新宿にお店を構えて15年、上質なメガネの販売と買取、レンズ交換も行っているお店です。僕たちが世界中からセレクトした新品フレームはもちろん、ヴィンテージ品や廃盤品も扱っているので、一般的なメガネ屋さんにはない品揃えを楽しんでいただけると思います。

古今東西から集めた“メガネ好きによる、メガネ好きのためのメガネ”の中から、お客様のご要望に沿う一本をご提案させていただいています。

  • レトロなビル

  • レトロなビル

ー銀座店はレトロなビルの一室にあって、
ちょっと隠れ家的な雰囲気ですね。

入居している奥野ビルは1932年に建てられたもので、昔は銀座アパートメントと呼ばれていた建物。今ではアートギャラリーやアンティーク、セレクトショップもあって、感度の高い方が多く訪れるんです。そのおかげもあって個性的なアイウェアを求めてやって来られる方が多く、銀座店には僕が好きなユニークなフレームを多く揃えています。

ただ銀座店は5坪の広さで、多くの日本のメガネ屋さんと違ってほとんどの商品は引き出しに収納した状態で販売されています。これは海外のメガネ屋さんを参考にしたスタイルで、お客様としっかりお話をしながら一緒にメガネを選ぶ時間を大切にしたい。そんな想いの現れだったりするんです。

お客様からするとちょっと敷居が高く感じられるお店だと思いますが、僕がお店を始めた理由はもっと多くの方に好きなメガネをかけてもらいたいという情熱からだったので、実は取り扱っているフレームの価格は1万円代からと価格帯の幅も広め。海外のデザイナーズブランドや、丁寧な作りに評判のあるジャパンブランドの新品だけでなく、僕たちが直接お客様から買い取ったUSED品、レアなフレームも扱っています。

  • USED品

  • USED品

ーアイウェアのUSED品も扱っている
というのは
珍しいですね。

そうですね。品質の良いアイウェアはどうしても値が張るものの、メガネ好きの人はどうしてもいろいろなフレームを試したくなるじゃないですか。僕も高校生のときにメガネへ興味を持ち、意を決してアランミクリのフレームを買ったんですが、結局かけこなせずに手放してしまって。その際、買取店での査定が予想以上に低くてがっかりした経験があります。だからこそ、「オシャレなメガネを豊富に取り揃えている一方で、価値あるメガネは適正価格で買い取り、リーズナブルに再販できる店があったらいいのに」というアイデアにつながったんです。

新宿に店を立ち上げた

実際に新宿に店を立ち上げたのは30歳のときでした。新卒で入社した大手の古物商で基礎を学んだ後、20代半ばは好きな仕事をいくつも転々としながら、アリゾナで宇宙旅行業の会社を起こしては潰すなど、かなり紆余曲折があって……。最終的に地に足をつけてやってみようと思ったときに行き着いたのは、昔思い描いていたメガネ屋だったわけです。
ですが、当初はメガネだけでは商売が成り立たないかもしれないと不安になり、先輩にお願いして貴金属やブランドバッグ、時計の取扱いもスタートしたんです。でも、どうしても熱が入るのはメガネばかりで。結局、僕が所有していたメガネコレクションを中心に販売するうちに、メガネ好きのお客様が少しずつ増えていきました。そこから一気にメガネ専門店としての道を進めることになり、メーカーから新品を仕入れたり、眼鏡作製技能士のスタッフを採用したりしながら、今のスタイルに至ったわけです。メガネ業界ではかなり珍しいケースなんですけどね(笑)。

  • メガネが好き

  • メガネが好き

ーそもそも、なんで大量のコレクション
を持つほど
メガネが好きなんですか?

僕の高校の制服は学ランでしたが、比較的自由な校風で、髪型やアクセサリーも許されていたため、ファッションに興味を持つ生徒も多かったんです。そんな中、ある友達がOASISのリアム・ギャラガーがライブでかけていた太い黒縁のメガネを真似し始めました。その姿を見て、「メガネひとつでこんなにも人の印象が変わるのか」と衝撃を受けたのが、僕がメガネにハマるきっかけでした。

以来、何千本とメガネをかけてきましたけど、メガネって、かける人の印象をガラッと変えるだけでなく、人を笑顔にする力があると気がついたんですよね。決して派手なデザインでなくても、普段とは違うメガネをかけることで、新しい自分に出会えるんです。メガネが変われば、その人の人生の景色も変わる。僕自身、そんな可能性を信じているからこそ、今でもさまざまなメガネを試し続けているんです。

 

メガネ屋としても、
アウトドアズマンとしても
異端

海外のアウトドア

南米最高峰アコンカグアへ向かうベースキャンプにて。自身のメガネにフライングタイガーのおもちゃメガネを合わせて作ったものを着用。

ープライベートでは海外に遠征して
アウトドアやスポーツにも
取り組まれているとか。

僕の人生は、古物業、ホテル業、宇宙産業、中古車販売、そしてメガネ屋と、さまざまな仕事を経験してきました。一見すると一貫性がないように思えますが、実はすべて「人生のやったら面白そうリスト」に基づいて行動しているんです。このリストには、ゴビ砂漠マラソンへの参加やエベレスト登頂といったチャレンジも含まれていました。

メガネ屋を始めてしばらく経った32歳のとき、ふと「エベレストに行くといっているのに、全然運動していないのはまずい!」と気付き、そこから本格的にトレーニングを開始。まずは日本国内で開催されている最も小規模なトライアスロン大会に挑戦したところ、予想以上に運動の楽しさに目覚め、その後もトライアスロンの大会に継続して出場するようになったんです。

そして、35歳のときには北海道やメキシコで開催されたアイアンマンレースに挑戦し、さらに250kmを走破するゴビ砂漠マラソンにも参加。無事に完走を果たし、少し予定から遅れたものの、次なるステップとしてエベレスト登頂を目指すことになりました。

ヴィンソンマシフ

2017年1月、南極大陸最高峰ヴィンソンマシフへのアタック。

ー高所登山となると
相当な準備が必要だったのでは?

当然ながら命の危険がある場所なので、装備や技術面での準備は不可欠でした。でも、決意してから実際にエベレストを含む世界七大陸最高峰の登頂を果たすまでかかった日数は1105日。子どもの頃、遠足でちょっと山を登ったくらいしか経験のない僕が、まさか3年で世界の名峰を登れるなんて、本当に幸運でした。

みんなに驚かれるんですが、結局それらを含めても僕の人生で登ったことがある山は実は10座ちょっとだけ。でも運良く、香港にお店を出していた2年間は街の近くにある山・ビクトリア・ピークで朝晩トレーニングができたし、三浦豪太さんや三浦ドリフィンズさんとの出会いを通じて、世界的山岳ガイド・倉岡裕之さんにサポートしていただいたことが成功のキーになったんだと思います。

ヴィンソンマシフ

2016年9月チョーオユー 8,201m山頂にて。後ろに見える頂がエベレスト。

ー登山のときの写真を見ると、
いつもユニークなメガネを
かけていらっしゃいますね。

登頂を本格的に目指し始めた日から登頂するまでの約3年は、「ちょっとエベレストへ行ってきます」というYouTubeチャンネルで動画を毎日更新していたのですが、どうせならメガネ屋らしい面白いことができればと思って、毎日違うメガネをかけて動画を回していたんです。そうしているうちに、これは山でもやるべきだという変な使命感が生まれてきまして。

登山中は最低限の荷物で行動するため、パンツとかは1枚しか持って行かないのに、メガネだけは日数分しっかり持参。そして、登頂の際にはそれらのメガネを一気にかけ替えるというのが僕の恒例行事になったんです。

特に厳しかったのはやはり8000m超えでのかけ替え。チョー・オユー(8,201m)では、なんとか持って行ったメガネすべての掛け替えを達成しました。しかし、エベレストでは酸素ボンベをしっかり使いながらも、「火星へ行くぞ!」や「百合子(妻)あいしてる!」と書いた旗を掲げるなど、やることが多く慌ただしかったため、全本数の掛け替えは叶わず、数本のみにとどまってしまいました(笑)。

それでも、山頂でメガネをかけ替えるというユニークな挑戦を続けていたことで、ある人から「世界最高のメガネ屋(高度)だね」と言われたんです。その言葉はまさに最高の褒め言葉であり、この挑戦が意義のあるものだったと実感しましたね。

 

世界最高峰への挑戦は、
目標であり通過点

世界最高峰への挑戦は、目標であり通過点

ー登山をするときはどんなメガネを
持っていったのですか?

基本的にスポーツサングラスとかではなく、街でファッションとして使えるデザインの凝ったフレームだったり、おもちゃメガネ、誠眼鏡店にある面白いフレームなど、「普通ならまず山に持っていかないだろう」っていうものばかりです。

もちろん、メガネだけだと眩しかったり目を保護するためにゴーグルやサングラスが必要な局面も多かったのですが、僕がやりたかったのは、メガネを使ってみんなに楽しんでもらうこと。僕がこうしておかしなことをすることで、少しでもメガネの魅力に気がついてもらえたらと思っていたんです。

実際、僕の思惑どおりメガネがきっかけで初対面でも打ち解けられることが多かったですし、コミュニケーションツールという側面もありました。もちろん、なかには「険しい山にこれから登るっていうのに、なんだかふざけた日本人がいるな」って思われることもあったみたいですが、ベースキャンプだけじゃなく山頂でも変わったメガネをかけているんで、最後には「お前すげーな」と認めてくれたりした人もいました(笑)

南極のベースキャンプ

南極のベースキャンプにて。

ー世界の名だたる名峰を
登った次に向かうのは?

エベレストや世界七大陸最高峰を登り終えたので、そこで高所登山はひと区切りですね。今後は北極点と南極点にもいずれ行きたいと思っていて、そこまで達成できたら「冒険家グランドスラム」達成です。でも今は、どちらかというと、泳いで、漕いで走るトライアスロンに再び挑戦していて、スイム10km、バイク420km、ラン85kmを3日間で走破するウルトラマンレースのカナダとハワイ大会で完走も果たしましたし、最近では海峡横断に挑戦したいと思っているんです。

オーシャンセブンという泳いで渡れるメジャーな7つの海峡があるんですが、そこを泳いで渡れたら面白いですよね。僕はアスリートではないのでタイムはこだわらないけど、とにかく海で投げ出されても15時間泳いでいられるとか、そういう人間でありたい。

僕の最終的な目標は宇宙にいくことで、僕の人生の予定表には「2049年7月、太陽系最高峰・火星オリンポス山に登頂」と書いてあるので、とにかくタフな人間でいなきゃいけません。だから長距離を泳げたり、空気の薄い高山に登るっていうのはある意味で通過点のひとつ。宇宙から地球をみたときにエベレストを見つけて「あそこ行ったなぁ〜」なんていってニヤリとしたいですね。

世界最高峰への挑戦は、目標であり通過点

ー星野さんなら実際にオリンポス山登頂も
実現してしまいそうですね。

正直、今はまだ火星に近づいているわけじゃないので歯がゆいですが、口に出しておけば何かが動くかもしれないじゃないですか。それに実際、20代に築いた宇宙業界とのつながりもまだ残っていて、2018年にロサンゼルスで開かれた国際宇宙会議では僕が講演者として登壇する機会があったんですが、そのとき参加していたジェフ・ベゾスに「俺、火星のオリンポス山に登るから、よろしくね!」って声をかけてみたり。本気とはいえ、今はまだ笑い話だけど、実現したら逸話になるはずです(笑)。

世界最高峰への挑戦は、目標であり通過点

宇宙飛行士になるとか、公募で選ばれるとか、そういう正統派の道はもう難しいかもしれませんが、「明日ロケット飛ばすんだけど、猿を乗せる代わりに誰か人間で行ける人いない?」って宇宙産業の要人たちがランチで話してる場に居合わせて、なんの躊躇いもなく「僕いけますよ!」といえるようなポジションを狙っているんですよ。本気で(笑)

そのためにも、「海で10時間泳ぐぐらいは平気で、標高は8000mでも死ななくて、地上も500キロぐらいなら自力で移動できます」ってぐらいのフィジカルは持っておきたい。そしてオリンポス山に登るときは、また大量のメガネを持って行って、銀河系最高のメガネ屋として歴史に名を刻むのが目標です。まずは宇宙空間にいく前に、地球であらゆる重力に抗い続けたいと思います。

個人HP:
https://makoto-hoshino.com/

誠眼鏡店HP:
https://www.makotoweb.com/