STORY

ジムニーと過ごす川辺の
ひととき

ジムニーと過ごす川辺のひととき

長袖では汗ばんでしまうような陽気に誘われて、ジムニーのキーを手にして駐車場へ。バッテリーがあがってないことに安堵しつつ、川辺までのドライブが始まった。近頃は18時すぎてもまだまだ明るいから、今日みたいに太陽が傾き始めた頃から始めても、たっぷり釣りが楽しめる。近頃はルアーを投げながら川辺を散歩するだけになってたけど、今日こそは釣れそうな気がする。土手を包む春の香りの中からバスの匂いを嗅ぎ分けて、奴らの目の前でルアーを泳がせるのだ。

 

休日、川のほとりでひとり

休日、川のほとりでひとり

手持ち無沙汰になった休日の午後、僕は腰をあげてある川のほとりまでやってきた。所沢の自宅からクルマで40分。街とも田舎とも呼べないような武蔵野の緩やかな流れを覗きにきたのは、趣味であるバス釣りをするため。そして、ウチのデモカーとして作ったジムニーのご機嫌をとるためでもある。

ミニバンで行く

僕はジムニー専門店をやっているのに、腰が痛くてあんまりジムニーに乗りたがらない。だから普段の釣行はロッドホルダーを取り付けたミニバンで行くことが多いけど、こうしてジムニーで走ってみると、乗り物としてこんなに楽しいものはないとあらためて実感する。市街地でさえガタゴトと自分自身で走らせている感が味わえるし、凹凸の激しい未舗装路に差しかかればさらに心が躍る。

子供がラジコンを操るのと同じ純粋さで、いい歳の大人がジムニーを転がす。何もオフロードコースに行かなくても、ただ土手を下りて川縁に寄せるだけで、充分僕は満たされるのだ。

前輪のフリーホイールハブ

前輪のフリーホイールハブを回し、手動で四駆へ切り替える、旧型特有の儀式。車内レバーだけでは完結しない機構が、逆に愛おしい。ギアが噛み合う手応えと、静かに奥歯を食いしばるようなエンジン音。「さあ、行こうか」とジムニーが頷いている。

土手を登り降り

いつものマッドモービル仕様の足回りやバンパーに加えて、三連テール、オリジナルマフラーを装備。当時の純正色だったワインレッドの外装に合わせた、差し色のインテリアも特徴的なNOT FOR SALEの一台は、まさに自己満足の塊だ。もうコースに行くようなことはしなくなったけど、こうしてたまに土手を登り降りして、ちょっとしたスリルを味わうのが今の僕の楽しみ。

35°くらいの傾斜なら問題なく行ける

大体35°くらいの傾斜なら問題なく行けるし、あんまり歩きたくないというのもあって、川のそばまで行けるジムニーは釣りでも最高の相棒だ。それに、水木休みで釣りをするのももっぱら一人。そう考えると大きなクルマなんか必要なくて、やっぱりジムニーがフィットしているように思う。

 

大嫌いだった釣り

大嫌いだった釣り

僕が釣りを始めたのは、店をジムニー専門にして間もない頃だったから、大体20年くらい前。二十歳頃に一回海釣りにいって惨敗して以来、「釣りなんて退屈な遊び」と信じ込んでいたんだけど、ウチの常連さんの誘いに渋々乗ったのが、結果的に釣りの面白さに気付くキッカケになった。

そのときは入間川で餌釣りをしたんだけど、まぐれでナマズが釣れちゃった。小さいサイズだったんだけど、それがまた可愛くてね。そのとき大ナマズが釣れてたら怖くてトラウマになったかも知れないけど、その小さなナマズが僕に釣りのロマンを教えてくれたんだ。

夢中になっている

次に手ほどきを受けたのが、ルアーで狙うバス釣りだった。当時は今ほど川バスを狙っている人が少なくて、ボコボコ釣れたこともあり、それでまんまとハマっちゃった。気付けば自分で道具を揃えるようになり、遠くの湖まで遠征することも増えて、2級小型船舶免許を取って、小さいボートも買ってとエスカレート。

軽自動車も釣りも毛嫌いしていたはずの自分が、いまや人生を揺るがすほど夢中になっている。ここで得た教訓は、まず試すこと。一度でダメでも、もう数回やってみる。それでも合わなければ、そのとき初めて見切ればいいのだ。

 

男の趣味は道具から

男の趣味は道具から

僕を釣りにのめり込ませた大きな要因は、ヒットさせたときのアドレナリンだけではない。水の流れ、温度、気候、障害物……いろんな条件を読み、どのルアーをどう泳がせるのか、戦略を練ることにも心が躍る。そして、極め付けは道具そのものの機能美。経験を積んだぶん引き出しは増えたはずだが、魚は年々警戒心を強め、答えは遠ざかる一方。禅問答のような無限ループ。答えがでないことも釣りの魔力なんだろう。

釣れない釣りを楽しむ

釣れないなら釣れないなりに、釣れない釣りを楽しむ。そんな境地に達してきたこの頃は、ジョイント系のビッグベイトを使って川バスを釣ることを目標にしている。正直、まだ川のビッグベイトで釣果をあげたことはないんだけど、だからこそ取り組みがいのある挑戦なのだ。

春バスを狙うなら暖かい水が流れている中層といわれているけど、今日の最高気温は27℃。魚たちも日向ぼっこしにきているのではないかと、まずはルアーのアクションを確認しつつ、トップウォーターをせめてみる。

シマノのリール

超クリアウォーターのなか、ルアーの下を横切っていく魚の姿がよく見える。まあ、まだ夕食どきじゃないのだろうと、割り切ってこちらもキャスト&リトリーブを楽しむ。今日はセッティングの違うタックルを4セット持ってきたし、それぞれの持ち味を確かめながらじっくりと探っていけばいい。

ちなみに、ビッグベイトに使っているのはシマノ。リールのブレーキの構造的に重いルアーに合っている気がするし、アクセサリーみたいなピカピカのリールは眺めるだけでもかっこいいのに、性能も最高。アンタレスDCは内蔵のCPUがラインをうまく制御してくれて、へたっぴな僕でも気持ちよく投げられるからありがたい。

 

静寂を破るヒット

静寂を破るヒット

桜が満開になった頃は花見客でごった返したであろう、川沿いの並木はすっかり新緑に衣替え。土手には菜の花の黄が点々と咲き、瑞々しい草が絨毯のように広がる。わざわざ山奥へと足を延ばさなくても、町中を流れる河川敷を散歩するだけでも心は穏やかになる。

そんなまったりムードのなかでは、おにぎりを頬張って帰るだけでも十分に満足できる。けれど、川辺にいる以上、本能的に魚を求めてしまうのが釣り人というもの。陽が傾き、長い影が伸び始めたタイミングを逃すまいと、タックルを小ぶりのルアーに持ち替えてもう一踏ん張りしよう。

堰下の溜まり

狙うのは堰下の溜まり。バイブレーションの尻尾にキラキラのフライマテリアルを取り付けた、僕特製のカスタムルアーでおびき寄せる作戦だ。クリアウォーターで見えるところに魚がいない以上、狙うのはサラシ(白泡だった場所)の下か、その流れの深部か。

上流側にルアーを投げ込んでドリフトさせてチラチラとアピールすると、突然食い気のあるやつが飛びついてきた!

川バス

それまでアタリもなく、暇を持て余していた手にやってきたガツンとくる衝撃。身体をよじらせて抵抗する獲物は、川底へグイグイと逃げ回る。力強い引きにロッドが弧を描くのを視界にとらえながら、慎重にいなしつつリールを巻き上げる……。

なんとも川バスらしい機敏な引きをじっくりと味わいつつ、徐々に岸に寄せて、ついに取り上げた。

大きめなスモールマウスバス

引き上げた獲物は30cm前後。この流域ではなかなか大きめなスモールマウスバスだ。ここ最近は同じポイントで空振りばかりだったから、喜びもひとしお。家では「釣り道具を連れて散歩しているだけ」と笑われているけど、今日はちゃんと釣れたんだぞと自慢ができそうだ。

黒を帯びた濃緑のボディが夕陽を受けてキラキラと煌めく。リリースして手を洗っても残る生臭さが、釣り上げた余韻を指先にとどめてくれる。

  • 粘ってみる

  • 粘ってみる

欲を出して同じポイントで10分くらい粘ってみるも、賢い彼らはもう食いついてくる気配はなし。一匹でも釣らせてもらったから満足といえば満足だけど、まだ1時間ほどは明るそうだから、もう少しだけ上流のポイントを覗いてみよう。

このジムニーは集中ドアロックもないから、いちいち鍵を挿してドアを開ける必要もあるし、車内も狭いからロッドを短くして積み込まなければならない。本当は素早く移動したいんだけど、この煩わしさすらも愛おしかったりする。

乗り心地とは無縁のジムニー

スタイルを求めるクルマ趣味も、食べる目的でもない釣りも、突き詰めれば“無駄”な営み。けれど、人生の彩りはたいてい余白の部分から湧いてくる。ならば、とことん自分の好きに振り切ればいい。そう自分で納得しながら乗り心地とは無縁のジムニーのキーを回し、次の釣り場へ向かった。

マッドモービル

マッドモービル
埼玉県所沢市上新井1-41-8
https://www.mud-m.jp/