STORY

ちっぽけで、そして
偉大な名車

ちっぽけで、そして偉大な名車

所沢、埼玉県南部に位置するこの都会と田舎の中間地帯で、僕はジムニーを仕入れ、整備やカスタムに手を入れて次のユーザーへと手渡している。20代の頃の自分が想像したら、こんなにジムニーに夢中になるとは思いもしなかっただろう。しかし、40歳を迎えた頃から、この小さな巨人の虜に。齢60を超えて、ジムニーを日々の足にするのには辛くなってきたけど、趣味グルマとしての魅力は色あせることがない。

 

大っ嫌いだったジムニー

大っ嫌いだったジムニー

バブルがはじける少し前に社会に出て、それからもう40年近くクルマ業界に身を置いている。若い頃はクルマと遊びのためにがむしゃらに働いて、20代の頃は、BMWやベンツの560SEL、セドリックを車高ベタベタに落として乗るのが好きだった。ホットロッドなんかにも夢中になっていたし、営業の仕事で車を売りながら、プライベートではずっと車をいじって遊んでいた。
当時は、軽自動車に乗っている男なんてほとんどいなかったし、僕自身「軽なんてクルマじゃない」って本気で思ってた。でも今、そんな僕がジムニー専門店をやっているんだから、人生なんて本当にわからない。

僕がジムニー専門店をやっている

べったんこのセダンから四駆に乗り換えたのは、ちょうど30歳の頃だった。たしか、仲間と河原でバーベキューをしていたときだと思う。日産のテラノとか、何台かの四駆が川の中をザブザブ進んでいって、そのまま中州でバーベキューを始めた。それを見て「うわ、かっけえな」って痺れちゃって、自分でも四駆に乗りたくなった。それからはランクルに始まり、テラノ、パジェロ、チェロキー……とにかくパワフルな四駆を乗り継いだ。乗り味も見た目も豪快なやつばっかり。
そのうち、仲間と車屋を始めたんだけど、しばらくはその延長で四駆ばっかり乗ってた。ただ、その頃はまだジムニーなんてまったく興味がなかった。むしろ嫌いだったくらいだ。ちっこくて非力で、あんなもん何がいいんだって思ってた。

 

ドロまみれで始めた
軽自動車販売

縁があったのが今の場所

でも転機が訪れたのが、今の場所に店を移したとき。固定費があまりかからない場所を探していて、たまたま縁があったのが今の場所。20年くらい前の話になるけど、当時は敷地も舗装されてなくて、雨が降ればドロドロになるような場所だった。だから「マッドモービル」っていう店名になった。まさに“泥グルマ”ってわけ。
今では近くに駐車場を借りたりして少しはマシになったけど、当時は整備スペースと事務所のプレハブを置いたら、展示できるのはアメ車一台分くらいのスペースしか残ってなかった。そういう事情もあって、軽自動車を扱うようにしたんだけど、心のどこかでは「俺、何やってんだろう……」って思ってた。だって、もともと軽なんて嫌いだったし。

ジムニーに手を出してみた

それでも、3ヶ月くらい経った頃だったかな。「どうせやるなら、自分が楽しいと思えることをやろう」と思って、ジムニーに手を出してみた。そしたら、これが驚くほど面白くて。今まで見向きもしなかったくせに、運転してみたら、大型の四駆にはない、自分で操っている感覚がすごくあるし、オフロードコースに行けば、自分の腕次第で登れるかどうかが変わってくる。その駆け引きも含めて、ジムニーってこんなに奥が深いのかとハマってしまった。
それから20年。気付けば、マッドモービルはジムニー専門店としてずっとやってきた。あの時、泥だらけの土地で始めた軽自動車販売が、まさかここまで続くとは思ってもいなかったけど。でも、ジムニーはやっぱり面白いクルマだって、今なら胸を張っていえる。

 

乗り心地が悪くてこそ!

乗り心地が悪くてこそ!

ジムニーの何が良いって、まず見た目。うちではジムニーの特にJA11を扱うことが多いけど、その角ばったフォルムは可愛くて、ずっと変わらず常に一定の人気がある。それに、JA11は機械っぽさがあって、自分で操って悪路を進んでいける感じは、クルマ好きとしてはハマるポイントだと思う。もちろん乗り心地とか走りの快適さでいえば、JB23のほうが優れているのは間違いないし、実際俺もだんだん好きになってきている。新型もあの四角いフォルムはかっこいい。ただ、僕からすると新型はちょっと快適すぎた。一年待ってようやく新車で手に入れたんだけど、乗ってみたらあまりにマイルドすぎて、結局1ヶ月くらいで手放しちゃった。

JA11なんてはっきりいって乗り心地は悪い。快適な装備なんて何にもついてないし、集中ドアロックもキーレスもないし、後部座席は狭いし、日常的に使うには適していない。だけど、それが遊びグルマとしたらこんなに良いものはない。釣りをする人なんかは狭い林道に入っていくための実用車にもなり得るし、都会でおしゃれに街乗りしても個性的。ジムニーに乗っている人やうちにくる人は、そういう快適さとはまた別の、ジムニーにしかない魅力をちゃんとわかっている人ばかりなんだと思う。

  • ジムニーは手を入れやすい

  • ジムニーは手を入れやすい

それと、車屋として見たときに、ジムニーは手を入れやすいってのも大きな魅力なんだよね。うちは小さな店で、少ないスタッフと二人三脚でやっているから、あのくらいの規模と構造がちょうどいい。最新のクルマみたいに複雑な電装系を触る必要もないし、構造自体がシンプルで、パーツも手に入りやすい。ランクルなんかと比べれば整備コストもグッと抑えられるし、そういう意味では古い割には維持がしやすくて、気楽に付き合えるクルマだと思う。

 

マッドモービルの
カスタム

マッドモービルのカスタム

ウチでは基本的には買い取りやオークションで仕入れてきた車両を、整備して、マッドモービル仕様にカスタムしてから販売している。ジムニー専門店として始めた頃はオフロード走行にハマっていて、足回りを高機能なショックアブゾーバーを変えたり、ロールバーをつけたり、一般道というよりコースをどう走るかカスタムするのにフォーカスした時期もあって、オフロード走行会を開催していたのも懐かしい思い出。だけど、その界隈の人たちって自分たちで直しちゃうから、ビジネスとしてはあんまり成り立たないことに気がついて(笑)。

マッドモービルのカスタム

だから今は、そうしたジムニーの本領を発揮しつつも、公道で走る遊びグルマとしてどんなスタイルがいいか、そして行き着いたのが今のマッドモービルのカスタムというわけ。

20年の間に試行錯誤を繰り返してたどり着いたマッドモービルのカスタムには、大きく4つの外見的こだわりがある。それは、オリジナルのバンパーと、オリジナルスポーツマフラー、オフロードタイヤ、そして車高調整3インチアップ。注文によって変えることはあるものの、基本的にはこれがマッドモービルが提案したいスタイルだ。

今もアップデート

両サイドを曲げて、スポーティーに仕上げたフロントチューブバンパーは、当初は単管パイプを曲げてワンオフで作って、角度やサイドのカットの角度など研究して作り出したもの。ウィンカーがライトとバンパーの間にくるようステーも設けられているのもポイントで、インチアップのために取り付けた無骨なシャックルや、タイヤの見え方のバランスも考えられている。

ジムニーって、軽だからどうしても見た目が頼りなくなりがちなんだけど、そこをどうクルマとして楽しく、風格のある一台に見せるか。そこはずっと悩んできたし、今もアップデートを続けている部分だ。

  • 今もアップデート

  • 今もアップデート

サイレンサーが着脱可能で、外せば迫力のある排気音が楽しめるオリジナルのステンレスマフラーは、ジムニーのバックスタイルを引き締める存在。3インチアップの車高調整は悪路走破性の向上プラス、タイヤが映えるフェンダーアーチとのクリアランスのバランスをとった結果だ。

タイヤには、無骨なサイドウォールとブロックパターンが特徴のクリーピークローラーをチョイス。正直、ロードノイズはダンプカーばりにうるさい。でも、その「うるせーなぁ」って思いながら乗る感じが、なんか好きなんだよね。

  • うるせーなぁ

  • うるせーなぁ

インテリアはレザー調のシートカバーをかけ、ウッドハンドルを装着。整備はもちろん、ルックスもここまで徹底して販売するのがマッドモービル流。ジムニー専門店やカスタムショップは数あれど、この仕上げ、このバランス感はウチならでは。かつてのようにオフロードコースをガンガン攻めるための仕様ではないけれど、山も海も街中も、どこを走ってもジムニーらしさを楽しめる一台になっていると思う。

 

遊びをクルマに、
クルマを遊びに

ジムニーと向き合い続けて20年

ジムニーと向き合い続けて20年。そのなかで、カスタムの方向性も自然と固まり、マッドモービルらしいカラー展開も少しずつ増えてきた。
最初はブラックばかりだったけれど、さすがに自分たちも飽きてきて(笑)。そこから色遊びを始めた。僕はもともとミリタリーが好きだから、戦車のカラーから着想を得たベージュをつくってみたり、クラシックミニをイメージしたユーコングレーを取り入れてみたり。そして最近は、魚のオイカワをモチーフにした「オイカワグリーン」もラインナップに追加。ベージュひとつとっても、よく見かけるジムニーとは違う色味にしたいという、ちょっとしたこだわりがある。

三連テール

またよせばいいのに……なんて思いながらも、ワンオフでしか作れないディフェンダー風の三連テールをこしらえてみたり。やっていることは、結局趣味のクルマいじりそのもの。どこまでも地道に、泥臭く。そういう姿勢こそが、マッドモービルという店の本質なんだと思う。
日本が生んだ、ちっぽけで、そして偉大な名車・ジムニー。小さくて、不便で、快適とはいいがたいかもしれない。だけど、これほどまでに遊べるクルマは、他にそうそうない。かつて軽自動車を敬遠していた自分に、新しい景色を見せてくれたように。ジムニーはこれからも、きっと多くの人を未知の場所へと連れて行ってくれるに違いない。

新しい景色を見せてくれた

マッドモービル
埼玉県所沢市上新井1-41-8
https://www.mud-m.jp/