STORY
小さな冒険家に付き添って

今回のゴールデンウィークは飛び石連休とはいえ、それでもまとまった休みが取れるのはやっぱりうれしい。いつもの週末なら忙しなく動き回っているところ、4日間もあるとなると気持ちも穏やかだ。3歳になった息子は、親の英才教育……というか洗脳のせいもあって、外で遊ぶのが大好き。暑くも寒くもない最高の季節に、僕らは伊豆へと旅立った。
休日の朝活

僕と妻、どちらの実家も埼玉にあるので、東京からふらっと帰省するのは日常の延長。そんなわけで今回も里帰りをパスして、家族3人でぶらりと旅行にでた。といっても、滞在場所は妻の両親が所有する伊豆の別荘。静かな森のなかに建っているから、連休の喧騒とも距離をおけて、海も山も近い。ホテルと違って家のように自由に過ごせるという点においても、どこに行くよりも最高の選択肢だと思う。
陽の光がたっぷり差し込む別荘では、朝日と鳥のさえずりが自然の目覚まし時計。いつもより少し早く目を覚ました僕は、「今朝はパンを持って、海を眺めながら朝ごはんにしようか」と提案して、釣り竿を手に海辺へと向かった。

以前までは渓流でテンカラ釣りばかりやっていたけど、最近は海でのルアーフィッシングに夢中。5分で海岸に出れるこの立地は僕にとっては完璧だし、息子と妻にとっても、朝の散歩にちょうどいい距離感なはずだ(笑)。
とはいえ、家族を待たせて永遠釣りを続けるような図太いパパじゃないから、30分一本勝負。眩しく煌めくサーフを前に、ヒラメでもかかればいいなと期待しながらキャストを繰り返した。
ビュンと竿を素早く振って、ルアーを飛ばしてリールを巻く。息子はくるくる回るリールに興味を持ったようだったので、一緒にハンドルを回してルアーを手繰り寄せた。この調子なら、「3歳から釣りをやっています」なんて将来いっちゃう釣りきちキッズになるかも? そんなことを思いながら、楽しそうな息子を見守る。

しかし、ちょっと気になっただけで、すぐに糸巻き遊びに興味を失って彼はまた母の元へ。寄せては返す波と追いかけっこしたり、海辺の足湯でチャプチャプ水遊びをして、それぞれの朝活を楽しんだ。
今日のメインイベントは
ピクニック

早朝の海で得た充足感を携えて別荘へ戻り、潮風を帯びた身体を流そうと朝風呂に浸かる。蛇口を捻って温泉が出る、幸せな環境に感謝しかない。
ひとしきり海で遊んで、お風呂でリフレッシュしてもまだ11時。今日は伊豆の友人とランチにいくという妻が身だしなみを整えてる間、息子と僕は自分たちのお弁当作りに取りかかる。クルマでちょっといったところに良さそうな森があるから、息子と散策してピクニックをしようと考えたのだ。

昨晩から麹で漬けていた鶏の唐揚げや、近所の竹林で採ったタケノコの煮物に加えて、道の駅で買った食材で彩をプラス。息子と僕が好きな、鰹節×チーズおにぎりを詰めたら完成だ。
お弁当作りは妻にやってもらっていることが多いからいえるけど、たまにやるお弁当作りは遊びみたいで楽しい。別荘だから冷凍食品頼みもできず、ある程度手間をかけなければならないというのも、スローライフっぽくてなんかいい。


再びクルマに乗り込んで、いざ男二人で冒険へ。海沿いの国道は連休とは思えないほどスムーズに流れているし、ドライブ日和。遠くに見えた大島のシルエットが気に入ったのかずっと指差していたので、大島っていうんだよと教えてあげると、何度も「おおしま!」と口にだして眺めていた。

やがて山側のほうへ曲がると、これまで眩しいくらいの空と海の青で支配されていた視界が一転し、森と木陰の世界に変わる。常緑広葉樹が多いこの辺りは春でも緑の色が濃く、最高気温が25℃のこの日でもひんやり感じられた。
新緑の森で過ごす午後

前にテンカラの釣り場を探していたときに発見した、少しひらけた山の中。沢に並行している林道沿いには大きなフキが群生していた。ピクニック気分で来たら、思いがけない山菜フィールドに出くわし、「ママに山菜を採っていって、また料理をしよう」と伝えると、息子は大きなフキを探して僕に持ってきてくれた。

大きく広がった葉っぱを傘にしてみたり、剣に見立てて振り回したり。僕の3分の1ぐらいの身長しかない息子にとっては、地面に生えた草花や木は僕の見えている3倍ぐらいの大きさに見えているのかもしれない。そう考えると、世界は巨大でワクワクする存在なんだろうなぁと羨ましくなってくる。
家族で食べ切れる分だけのフキを確保してクルマに戻り、こんどは弁当を持ち出してランチタイム。ピクニックと呼ぶにはかなり鬱蒼としているけど、息子がここで食べるというので、苔むした切り株をテーブルにしつつ、丸石に腰かけて弁当の蓋を開ける。沢音と鳥の声をBGMに楽しむ贅沢な時間だ。
息子が大好きなトーマスのトレーニング箸に小さな指を添えて、タケノコの煮物をつかんで上手に口に運ぶ。僕でも刺し箸しちゃいそうなものを、器用に挟んで食べているから関心してしまう。

おにぎりを頬張りながら、「僕の手汚いねぇ」と、フキの汁で着色された手を見せてきた息子に対して、「それはフキハンターの勲章なんだよ」と教えてあげる。
最近の彼は、とにかく何にでも興味津々。これが“なになに期”から“なぜなぜ期”への移行なのだろう。実際、なぜフキの汁で手が染まるのか、そしてどうすればきれいに落ちるのか、父としてちゃんと調べておかないとな……。
ママに山の恵みをお裾分け
お腹を満たしたところで、今度は沢沿いをもう少し散策。万が一足を滑らせても靴が濡れるくらいの小さな沢だから、子供と一緒でも安心して歩ける。
ゴールデンウィークともなると採れる山菜も減ってくるものの、こうして川辺を見てみると、木陰には食べられそうなものがポツポツと。足元に注意しながら、クレソンやママが好きそうな野花を摘みながら、涼やかな午後を満喫する。

そうして地面を眺めて歩いていると、枯葉のすき間にイモムシを発見! 自然に連れて来られることが多いのに、意外とシティーボーイに育った息子は虫が苦手……だったはずだけど、最近はアリやイモムシなんかの小さないきものを観察するのが好きらしい。相変わらず羽のある虫にはビビっているけれど、少しずつ彼の視野が広がっているのを感じる。

1時間ほどの周回コースを歩き終えた頃、妻から「そろそろお開きになるから、タイミングで迎えに来て」との連絡が。森の空気に名残を感じつつも、息子も満足げだったので里に降りることにした。

朝からいっぱい遊んだ今晩のメインディッシュは、息子がこねたハンバーグに、お気に入りのご当地スーパー「あおき」で仕入れたチーズをトッピングし、さらにクレソンを飾った一皿。観光地やショッピングを楽しめるのも長期休みの特権だけど、こうしてゆっくり家族と過ごせるのも贅沢なんだとしみじみ思う。
次のまとまった休みはお盆まで少し先だけど、だからこそ、週末というささやかな連休をもっと丁寧に、家族の時間として大切にしていきたい。