水面に浮かぶ静けさと笑い声

STORY

水面に浮かぶ静けさと
笑い声

水面に浮かぶ静けさと笑い声

キャンプをはじめてかれこれ15年以上。子どもたちと毎週のように外へ出かけていた時期が懐かしく、今では倉庫に眠るギアたちにうっすら埃が積もりはじめている。ここ数年は、太田のラグビースクールのコーチをしながら週末を過ごす日々。あるいは、遠く京都の高校に通ってラグビーに打ち込む息子の応援に駆けつけたり。そんな日々も気に入っているけど、ふとしたときに、アウトドア遊びに思いを馳せている自分がいるのだ。

 

仲間とのご無沙汰キャンプ

仲間とのご無沙汰キャンプ

慌ただしい日常のなかで、久しぶりにやってきた完全フリーな週末。僕は家でゆっくりするなんて選択肢は頭になく、すぐに仲間に連絡をしてキャンプをセッティングした。

自宅のある群馬県太田からクルマを走らせて1時間半。目指したのは新潟や長野との県境も近い中之条町。位置的にはみなかみと草津の間に位置する地味な山間の町だけど、マイナーなぶん混雑とは無縁で自然に向き合えるし、四万温泉という渋い温泉街もある。そして何より、ここには他にはない景色が待っている。

キャンプ仲間

そんな絶景を満喫するために声をかけたのは、キャンプ仲間のなかでも水遊びが好きなふたり。鋳物職人のだいちゃんと、黄色が好きすぎる歯医者・ハギもっちゃん。僕らは、キャンプを愛する中年たちで結成した「ベール会」という集まりの一員。とはいえ、毎年東京で開かれる忘年会では朝まで酒を酌み交わしているものの、こうしてフィールドで顔を合わせるのは、気付けばもう2年ぶりになる。

「全然遊べてないのは、ゆってぃーがラグビーばっかりしてるからじゃん!」。なんて憎まれ口を言われつつも、心を許せる友人たちとこうしてまた集まれたのは素直に嬉しかった。

 

SUPのシーズン到来

  • SUPのシーズン到来

  • SUPのシーズン到来

梅雨の真っ只中のはずなのに各所で猛暑日を記録している熱帯地域・群馬県。こう暑くちゃ、大人も水遊びをしてキャッキャしたくなる。ということで、キャンプサイトの設営をあと回しにして、早速クルマからSUPボードを取り出し、電動エアポンプで空気を送り込む。

使わないときに小さくできて、使うときは手間なく準備できるっていうのがSUPのよいところ。それ以前はフォールディングカヤックで遊んでたけど、毎度の組み立てと片付けがめんどくさくなって今やSUPばっかりやっている。

5つのフィンを装着できる仕様

もともとはキャンプの合間の暇つぶしになればと始めたSUPだったけれど、僕の夏キャンプには欠かせない存在になって早10年。形やサイズによって乗り心地がまるで違うことにハマってしまい、気付けば自宅には5艇のボードが転がっている始末。今回連れてきたのは、そのなかでも一番攻めてる一本。ロッカーがしっかり入っていて、5つのフィンを装着できる仕様。川下りにサーフィンと、アクティブな遊びに幅広く応えてくれる頼れる相棒だ。

何にでもいえることだけど、僕がアウトドアギアに惹かれる最大の理由は、やっぱり機能美にあると思う。必要に迫られて生まれたディテールには、無駄がなくて説得力がある。

趣味の道具

今日はほとんど流れのない穏やかな川辺だけど、趣味の道具くらいは自分が心から気持ちよく使えるものを選びたい。自然の風景にすっと溶け込む木目調の佇まいもたまらなくて、ボードを眺めているだけで、なんだかうれしくなってしまう。

 

異なる表情を見せる
四万ブルー

異なる表情を見せる四万ブルー

キャンプ場は四万湖の上流に位置していて、サイト脇からそのまま川へ入れる好立地。SUPを膨らませている間にじんわり滲んできた汗も、川に浮かべばすぐに引いていく。澄み切った水辺の空気が、肌を心地よく冷やしてくれた。

宝石のように輝く水の色は“四万ブルー”と呼ばれていて、その美しい色はまさに自然の神秘。この独特の色は、温泉水に含まれる微粒子が光を乱反射しているとか、透明度が高くて青い光が水底まで届き、赤い光が吸収されることで青く見える……。とか言われているけど、とにかく理屈抜きでキレイなのだ。

バックアップ用のカヤック

鳥たちの声が響く谷で、ゆっくりとパドリングするたびに奏でられる水の音。ラグビーで若者たちと汗を流して青春を共有するのもかけがえのない時間だけど、こうして自然の静けさに包まれる瞬間も、また別の意味で僕を満たしてくれる。風の影響もほとんどなく、水面も凪いでいる四万湖の上流。立ったり座ったり、寝っ転がったりして、自然の青と緑の競演を楽しめるのはとっても贅沢だ。

そう思って水面に浮かんでいると、奥さんと自分の分、ふたつのパックラフトを膨らませ、さらにバックアップ用のカヤックを抱えたハギもっちゃんが水辺に到着。止まったら死んでしまうマグロのような男の登場で水辺は賑やかになったけど、やっぱりこのワイワイ感も愛おしい。

水面に浮かぶ心地よさ

川の流れはゆるやかで、湖のように穏やか。ぷかぷかと水面に浮かぶ心地よさを楽しみつつ、僕は久々にトリック練習をすることにした。ボードを立て、グラトリの真似ごとをしてみるが、あえなくバランスを崩して冷たい水中へ。
そんなSUPの醍醐味を僕が満喫する一方で、“沈”しないように着実にパドリングをするだいちゃん。一方でハギもっちゃんは、岸からせり出した木に登り、そこから一回転半のバク転を披露し、見事に背中から着水してみんなを笑わせてくれた。

 

まだ見ぬ青とめぐり逢う

  • デッキバッグはビールを安全に運ぶためのギア

  • デッキバッグはビールを安全に運ぶためのギア

ひとしきり遊んだあと、自分たちには珍しくまだビールを飲んでいないことに気がついた。ほんとうは上流の川の流れ込みにある河原で乾杯する予定だったけど、人気スポットだけあって先客が。ならばと、船上での即席パーティーを決行することに。

SUPにつけたデッキバッグはビールを安全に運ぶためのギア。厳重に輸送してきたビールのプルタブを開けると、プシュッという音とともに白い泡が噴き出した。

ちゃんと満たされている気がした

ぬるくなった炭酸が喉を通過し、思わず「くぅ〜」と声が漏れる。SUPの上で風に揺られながらの一杯。頭上には木漏れ日が揺れ、水面には空と雲が映り込む。何もしていないのに、ちゃんと満たされている気がした。

あぐらをかきながらあらためて川の中を覗き込むと、透明な水の奥に川底が見える。岸からでは気付かなかった水の深さ、そしてウグイの群れの大きさにも驚かされた。

気の合う仲間との語らい

ビールを一本飲み干し、すっかり水遊びリフレッシュしたあとは、あと回しにしていたキャンプサイトの設営。テントを建てて、リビングを整えているうちに、いつの間にか四万川の色は明るい色に変わっていた。

深いインディゴから、澄んだターコイズ、そして鮮やかなコバルトブルーへ。光の加減や角度によって表情を変える“四万ブルー”に、僕はキャンプと重なるものを感じてしまう。かつて子どもたちと過ごした賑やかな時間も、今は気の合う仲間との語らいも、どちらもキャンプが見せてくれる異なる風景のひとつだ。
やっぱりたまにはこうして自然に出かけて、アウトドアでしか出会えない景色を心に刻んでいかないとな。

Instagram:
@yutty.50

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