STORY
好きに囲まれる、
大人のキャンプ時間

キャンプから少し遠ざかっていたけれど、久しぶりに気の置けない仲間たちとワイワイ過ごしたくなった。向かったのは、水がエメラルドブルーに輝く四万湖の上流。静かな川辺のキャンプ場でSUPを楽しみながら、キャンプの醍醐味をあらためて感じる。好きなギアに囲まれ、好きな仲間と過ごす時間。気軽に集まってくれる彼らに、感謝せずにはいられない。
クルマはでかいけど、
荷物はコンパクト

キャンプを通じて出会った仲間たちのクルマはみんなデカい四駆が多い。かさばるキャンプ道具を積むのはもちろん、季節を問わずアクティブに遊ぶ僕たちにとってそれは必然なのかもしれない。ルックスはもちろん、クルマにはギア的な要素を求めてしまっているのだ。
「差し色で黄色を使うのが好き」と言いつつ、もはや“差し色”どころか全体が黄色に染まっているハギもっちゃんの愛車は、ラングラー・ルビコン。一見いかついダイちゃんはキャノピー付きのハイラックス。そして僕は、車中泊仕様のハイエース。それぞれの個性がクルマに滲み出ている。

僕もクルマ好きで、これまでワゴニア、ディフェンダーのピックアップ、ゲレンデヴァーゲンと乗り継いできた。でも先日、ゲレンデを手放して、今はハイエースに乗っている。以前は、家族や友人と頻繁にキャンプへ出かけていたから、見た目のかっこよさを重視してクルマを選んでいた。だけど最近はキャンプに行く機会が減った代わりに、「車中泊しながら長距離ドライブできる」ことの方が、自分にとって大切になってきた。
週末はラグビーチームのコーチとして忙しく過ごし、京都の高校でラグビーに打ち込む息子の応援で、群馬と京都を往復することもしばしば。だからこそ、壊れにくくて燃費がよく、荷物もたっぷり積めるハイエースは今のライフスタイルに合っていると思う。

とはいえ、年を追うごとに僕のキャンプ装備はシンプルになってきている。20年ぐらい前にキャンプを始めた頃は、大型シェルターにテーブル、椅子、キッチンまで用意して、引越しさながらのサイトを作っていたりもした。自然のなかで家みたいに快適に過ごせるようにという頭だったんだけど、そのうちに海外ギアの機能美に惹かれ、少しずつ「不自由さを楽しむ」方向へシフト。自然との距離感も、自分なりに見えてきた気がする。
もともとファッションが好きで、キャンプをするときも自分が気に入ったギアに囲まれていたいという思いは、昔から変わらない。シーンに合わせて洋服のコーディネートを考えるように、道具選びも毎回変えるようにしている。そんな性格だからテントやタープも10数張りはあって、ギアを収めた倉庫は道具が山積み。大変といえば大変だけど、その中から「今回は何を使おうか」とあれこれ考える時間も、毎回のキャンプの楽しみのひとつになっている。

そんな感じでたくさんのギアを持ってる僕だけど、ここ数年はキャンプするだけなら、バックパックひとつに済む程度の道具しか持っていかない。同じくギア好きのダイちゃんも、クルマの大きさに反して道具はとてもコンパクト。特に今日は、道具をいろいろと用意してくれる人がいるからね……。
ベール会のキャンプ風景

キャンプ仲間との遊びから自然発生的に生まれた「ベール会」は、アウトドアと酒をこよなく愛する中年キャンパーの集まり。今日集まったのはその一部だ。最近の僕は、忘年会など限られた機会にしか顔を出せていないけれど、他のメンバーはそれぞれに集まってキャンプや登山を楽しんだり、自分たちでオリジナルグッズを作ったりしながら、仲間との交流を深め続けている。

ときには大きなシェルターを建ててみんなで雑魚寝をすることもあるけど、今回はそれぞれが自分のテントを張るスタイル。僕は久しぶりにローカスギアのシェルターを持ってきたけど、ピシッと張るのに少し手間取ってしまった。その理由は、きっと空きっ腹に流し込んだお酒のせいだろう。

「ゆってぃ、全然うまく張れてないじゃん」なんて僕に苦言を呈してきたダイちゃんは、中国発のULブランド・プレテントのマウンテンリサーチ別注モデルを初張り。インナーとアウターが一体になったダブルウォールだからすぐに張れるんだと豪語していたけど、納得できる仕上がりになるまで時間がかかっていた。

パックラフトでの川旅にも慣れてるハギもっちゃんは、僕と同じテントだけど手慣れた感じであっという間に設営。パックラフトはベッドにもなるんだと余裕を見せつけてくれる。
こだわりのキャンプギアたち

僕がUL系のギアに手を出したのは、キャンプもマンネリしてきた10年ぐらい前で、ハイキングを始めようと思ったから。実際は全然山登りなんかしてないけど、当時誰も使っていなかったギアを探して使うことが楽しくて、結局キャンプ熱が再燃。その点はまさにファッションと一緒で、新しいギアとの出会いが、いつも僕のキャンプ欲を掻き立ててくれる。
オートキャンプにULギアを持ち込んだり、海外モノが大好きなのに日本の手仕事っぽいものにも惹かれたり。僕の道具選びは、矛盾しているようでいて、「自分が好きな道具を使う」というスタンスだけは、ずっと変わらない。

こうした仲間とのキャンプでは撤収を楽にするため、道具は最小限。「シェラカップすら持ってこないでしょ」とハギもっちゃんにからかわれるけど、実用的なものはある程度人任せにして、自分が気に入っている道具だけは必ず持ってくる。
自然のなかで過ごすからこそ、紙コップではなく木のカップでお酒を、ただのケトルじゃなくて金属工芸作家による銅のポットで淹れたコーヒーを楽しみたい。そんな小さなこだわりが、キャンプに特別感を与えてくれるのだ。

キャンプでお香を焚くのは僕のなかでは大定番。エルネストとクンバのコラボインセンスを愛用していて、香りに包まれると気持ちも整ってくる。設営が終わり、遊びも一段落した夕暮れのひととき。お香の煙とともに過ごすその時間が、僕を深く癒してくれる。
キャンプの要は、
気の置けない仲間たち

コンディションや角度によって幻想的に変化する四万湖の色。日中はカヌーやSUPでにぎわっていた水辺も、夕暮れが近づくとすっかり静けさを取り戻した。ほかのキャンパーは一組だけ。
まるでプライベートレイクのような贅沢な空間に、「夜暗くなったらさ、パックラフトのなかにLEDライト仕込んで、夜はエレクトリカルパレードしようぜ」とハギもっちゃんがはしゃぐ。

彼はきっと実行するんだろうなと思いつつ、僕はさっきまで使っていたSUPボードをスツールの上に乗せて、ダイニングテーブルを作ってみた。今回初めての試みだったけれど、案外安定しているし、天板が広いからいろんなものが置けて、なかなか調子がいい。
そんなふうに、我ながらいい出来栄えだと悦に浸っていると、ハギもっちゃん夫婦はテーブルの上にお酒の瓶をずらりと並べてミニカウンターをつくり、おつまみまで用意してくれた。フルーツの盛り合わせなんて、ちょっとスナックっぽいな――なんて思いながら、今年初めてのメロンを頬張ると、思いがけず口の中いっぱいに夏の訪れが広がった。

そうしてお酒をちびちびやりながら、まだ明るいうちから夕食の準備。京都出身の僕なら、「たこ焼きってなったら自分から作るだろう」と思われていたのだろう。もちろん、本当のたこ焼きを知らない人たちに任せたくはないから、僕がやるけれど……。
この手の料理は、シェフになった時点で負け戦。「もう少し生地はしっかりしてた方がいいんじゃない?」「まだひっくり返さないの?」なんて、あーだこーだ言われながら、せっせと焼いていく。外はカリッと、中はトロッと。完成したたこ焼きを食べれば、きっとわかってもらえるはずだ。

まあ、正直1ロット目はそれほど満足のいく出来ではなかったけれど、こういうのは焼いているうちにだんだんうまくなって、お腹も自然と満たされていくもの。お酒を片手に、のんびり楽しみながら焼いていこう。
気心知れた仲間との夜に特別な何かは必要ない。たこ焼きにたくあんやこんにゃくが入っているくらいの、ちょっとしたアクセントがあればそれでいい。ただこうして、久しぶりに夜空の下でたこ焼きをつつき合っているだけで、十分に幸せを感じられるのだから。
Instagram:
@yutty.50