STORY
ドローンは
船を操舵するように
釣り好きが高じて船を操る楽しさを覚え、一時は釣り船の船長に。そして、いつの間にか操るプロペラは縦に傾き、僕は空を飛ぶようになっていた。
人生はどこでどう転ぶかわからない。僕の場合はただ好きなことをやり続け、仲間が運んできた運を拾ってきた部分も多い。この日も僕は風と波に翻弄されて、三浦の浜辺にたどり着いた。
出航を断念したこんな日は
秋雨前線が停滞して、パッとしない天気が続く。最近はようやく寒くなって水温も下がってきたので、青物釣りが期待できそうだ。僕はそう思って、今日のために釣りに行く準備を始めていた。
父がバスプロだったこともあって、文字どおり物心つく前から竿を握ってきた。そんな僕だから、最大の関心ごとは魚のこと。16歳になってすぐに二級、18歳で一級小型船舶免許を取得。それ以来、別の用事がない限り休みの日は千葉か神奈川の船宿、たまにレンタルボートで沖に出るのが常となっている。
ところが今日は海上の風が強く、残念ながらレンタルは不可と伝えられた。先週雨に降られて断念したのに引き続き、今日は釣りができなくて落胆。曇天でむしろ良いコンディションに思えたのに……。操舵は客の自己責任となるレンタルボートは、乗合船以上に風速にシビアなのだ。
船に乗れないまでも、ちょっと潮風を感じたくてやってきたのは三浦半島の先っちょ。仕方がないから、練習がてら次の現場で使うドローンの動作確認をすることにしたのだ。
暖房をつけて温まっていたレンタカーから出ると、外気の冷たさに肩がすくんだ。場所を確認するよりも先に、まずはシマノのESインサレーションジャケットを羽織って防寒対策。万全の状態でドローン機材のチェックを始めよう。
このジャケットは船上で着るために導入したもので、綿入りで暖かいし、ミリタリー調のルックスもいいからめちゃくちゃ便利。荒涼とした岩場の前でその安心感に包まれながら、どの機体から飛ばそうかなと考えた。
ES=イナフ・ストレージという名前のとおり、大型のポケットが特徴のジャケットは、ルアーボックスなどもすんなり収納できる。それに着脱式のレンズクリーナーや、カラビナを引っかけられるテープもあって何かと便利。保温性と海水撥水は本気の釣りスペックだし、僕の日常に本当にちょうどいい。
好きを突き詰めたら、
僕の人生になった
僕はドローンを中心としたビデオグラファーを生業としていて、同世代の仲間と一緒に「NBC FILM」という映像制作会社を立ち上げ。映画やドラマ、広告、MV、車関係など、日々さまざまなクリエイティブに携わって充実した日々を送っている。
昔から好きなことを仕事にしたいという願いはあって、将来は釣り関係の仕事に就くのだろうと思っていたんだけど、まさかドローンで映像を撮る未来が待っているとは。人生は本当にわからない。
僕がドローンにハマったのは、ドローンの操縦が船のようだったから。海に浮かぶ船と空を飛ぶドローンなんて一見まったく別物だが、その場で旋回できる自由さや、地面に縛られない浮いている感覚に、同じ手応えを感じたのだ。
釣りと船が好きすぎて、新卒で飛び込んだのは都内の船宿。屋形船と釣り船の船長として、毎日のように東京湾の奥を駆け回っていた。朝早かったり、夜遅かったりして大変だったものの、のんびりと船の上で働けるのは、まさに天職だと思った。
しかしその状況はパンデミックによって一変。船宿の仕事から離れてたどり着いたのは、お台場のドローンスクールの講師の仕事だった。ちょうどドローンにハマってそのスクールで資格取得していた縁もあり、ドローンが遊び道具から仕事道具にもなり始めたのだ。
映画やテレビなど、映像関係の会社が職場の近くだったこともあり、僕の働いていたスクールではドローン撮影を請け負うことも。それで僕自身の映像撮影への興味がムクムクと湧き上がってきたのだ。
好きになったらトコトン集中しちゃうのは親譲りなのか、今度は映像撮影を専門でしたくなって独立。僕の映像人生を導いてくれた仲間と海外でドローンカフェを開いたり、仲間と会社を立ち上げて地道に映像を撮り続けていったら、いつの間にか大きな仕事にも繋がるようになった。
まだ25年しか経っていない僕の人生。計画性なんてほとんどなかったが、好きに突っ込み、飛び込む勇気を持てば、結局は周りに支えられてなんとかなる。守りに入らないこと。それが、僕のやり方なのかもしれない。
せっかく海に来たなら
機材のチェックと指ならしを終えたあとは、積んでおいたタックルを取り出して振ってみる。船を運転できるようになってからは、ほとんど陸から狙うことがなくなったけど、こうやって別の用事ついでに軽くできるから陸っぱりも悪くない。
多分ボラだけど、魚はちょこちょこいそうな雰囲気。今の時期ならイナダが遊んでくれるかもしれないと、一縷の望みをジグに託す。
さっきドローンで上から見たコース取りを思い出しつつ、魚が来てくれそうな場所へ移動してライトショアジギング。仕事柄、常に別アングルを探す癖がついた。目線を変えること。凝り固まった固定観念から自分を解き放ち、失敗を恐れず試すことの大切さ。
魚が釣れない間は、自問自答の時間。ハンドルを回しながら、ついつい仕事のことも考えてしまっている。
近頃はドローンも気軽に飛ばせる場所は少ないし、釣り場も規制されることがあって、遊べる場所はどんどん少なくなってきている。さっき出会ったラジコンヘリをやっているおじさんも「昔はこんなに厳しくなかったのにね」とこぼしていた。
それは無茶な挑戦をしたり、マナーが悪い人がいた結果だろうけど、せめて今ある環境から閉め出されないためにも、他人事と思わず、僕たち一人ひとりが意識しなければならないなと思ったりもする。
まだまだ、
やりたいことばかり
やっぱり思いどおりに魚は姿を現してくれそうになく、小一時間くらいで釣りは切り上げてランチにする。釣るのも食べるのも好きな僕にとって、港町での締めの食事は至福のひとときなのだ。
平日の3時だというのに、三崎の有名店なだけあってお客さんはたくさん。「マグロは刺身だけじゃないぞ」という、プロの想いが感じられるマグロのカルビ焼きからパワーをもらった。
今日みたいに、休みでも優先順位はいつも自分のやりたいこと。もし彼女ができたら手を焼かせるな……。そんな取り越し苦労を胸の底にしまい、港町の商店街をぶらぶらする。
仕事も遊びも、やりたいことに満たされているいま。この幸福で鈍らないよう、何かまたひとつ新しい扉を開けていければと思う。
Instagram: @morih226

